【曼珠沙華】 炎に落ちる090



 「ただいま~」

玄関の開く音と同時に聞こえる声。

居間でごろりと寝転がり、テレビを観る俺は顔だけ上げて桂の方を見た。
「お帰り~、めしは?」

「ま~だ。今日は昼もろくに食べれなくてさ、海外研修の話を聞いてたら遅くなっちゃった。千早は?もう食った?」
そういうと、カバンとジャケットを椅子に掛ける。

「うん、さっきまでアネキが謙を連れて来ていてさあ、腹減ったってうるさいから牛丼食ってきたんだ。」

「ああ、そうか。謙ちゃん3年生になったんだっけ?」

「そう。益々生意気になってるよ。あれは父親が不在だからだな。友田さんいつ帰ってくるのか知ってるか?」

「う~ん、どうだろう。あっちは仕事のペースがゆっくりだからね。日本の企業とは違うんだよ。」

「そうだな・・・。」
相槌を打ちながら、俺は立ち上がると台所へ行き、冷蔵庫から適当に食材を取り出した。
「野菜スープならすぐ出来るけど。」振り向くと桂に尋ねる。

「おッ、ありがと。千早のスープ大好きなんだ。」
そんな事を言われ、ちょっと気分が上がった。

キャベツをざく切りにすると、玉ねぎやニンジンを刻み、ベーコンを厚く切って鍋に入れる。
そこに水を入れて、コンソメで味を付けるだけ。
後は煮込んで出来上がりという超簡単なものだ。

でも、桂は喜んでくれる。

テーブルに置いた途端、スープの中のキャベツをすくうと口に入れた。

「ん、ウマイ。このキャベツの柔らかさがいいんだよな。玉ねぎの甘みも出てるしさ。」

美味しそうに口へと運ぶ姿に、ちょっと気恥ずかしくなる俺だったが、こうして起きている間に顔を見られることが少なかったから、凄く嬉しくて真向かいに座って桂の食べる顔を見ていた。


目だけがニコリと微笑むが、口はスープをせわしなく入れている。
そんな様子に、一人心があったかくなる。


「千早・・・、風呂入った?」
桂は手を止めると、俺の方を見て聞いた。

「いや、まだだけど?!」

「じゃあ、一緒に入ろうか?」

「え?・・・・・狭いじゃん。ヤだよ。」

「え~っ、久々なのに・・・。」

「ば~か、早く食っちゃえよ。俺、先に入ってくるから。」

「・・・うん、分かった。」



台所を後にすると、自分の着替えだけを持って風呂場へと行く。

そういえば、最近は昔ほど桂と肌を重ねていない。
忙しくて、すれ違いになることが多いし、同じベッドに寝る事も少なくなったからか・・・。

ここに住み始めた頃は、まるっきり二人の世界で、毎晩のようにからだを求め合った。

今は、落ち着いた夫婦の様で、互いの顔が見えればそれで安心する。
身体を壊さない様に。なんて願うだけって、かなり所帯じみてるな・・・。




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