【曼珠沙華】 炎に落ちる092


 - 土曜日の昼下がり。 -


たった5坪の俺の店は、一応客の入りも良くて、歓楽街に近い立地のせいなのか男性客が多かった。

しかも、ここは天野さんの美容室の裏手。
ワンブロック先には飲み屋が多くて、昔から何かと世話になっているゲイバーのママの店もある。

立花はじめさんというママは、俺が高校生の頃、ピアス男に絡まれた時に助けてくれた人だ。

知り合いの店に出入りしていたらしいピアス男に何か言ったのか、それ以来顔を合わせても絡んでは来なくなった。
それどころか、俺がアイツにヤキを入れた、なんて噂が出回って、なんとなく俺はこの界隈で目立つ存在となる。

自分としては、何の事やらサッパリ分からないんだけど.....。

まあでも、平和な毎日を送れるのは有難い。
そんな訳で、たまにはママのご機嫌伺いをしに店を訪れたりもしている。


「チハヤクンも歳とったわね~。昔はあんなに可愛かったのに。」

カウンターを拭きながら開店の準備をしているママがいう。そういうママは、相変わらずのガッチリした身体にノースリーブのシャツを着て、忙しく動く手はグローブの様に大きかった。お世辞にも綺麗とか可愛いなんて言えないタイプだ。

「悪かったよ。可愛くなくなってさ。でも、いいんだ。俺は桂にだけ、そう思われてれば幸せなの。」

「あらっ、やぁ~だっ!!惚気?・・・聞きたくないわぁ~~~っ。」

フキンを俺の顔の前に持ってくると、わざと拭く真似をしながら言うが、ニヤリと笑う顔は結構嬉しそうだった。

俺と桂の関係を知っているからか、案外温かい眼差しで俺たちを見ていてくれる。


「そういえば、その桂くん、外国へ行っちゃうって聞いたわよぉ?!ホントなの?」

「.........うん、まあね。多分6月ごろには行くと思うよ。今必死で研修受けてるみたいだし。」

「そう.......、ちょっと淋しいわねぇ。しばらくは遠距離になるって訳だ。・・・大丈夫?!」

少しだけ心配そうに俺の顔を覗きこむ。
まだ化粧を施していないスッピンを見せてくれるのは、俺と天野さんにだけらしいけど、化粧っ気のない顔は凛々しくてカッコイイのに・・・。

「今までだって海外出張はあったし、まあ、大丈夫だろ。」
と、俺は呑気なふりをするが、本心は違っていた。

これまでに、自分の性癖を知ったうえで関係を持ったのは、天野さんと桂だけ。
天野さんは別格として、桂と恋人関係になってからは、どんなに他から誘われてもなびかない自信があった。
今までと違うのは、その離れている期間が長くなりそうだって事。今までの1週間や2週間じゃない、年単位で離れるのは初めて。
そこだけが、大丈夫かどうか分からない所だ・・・。


・・・それに、未だに俺の両親や桂の祖父母にはカミングアウト出来ていない事も。

そこはなんとなく気づいているかもしれないが、俺たちに面と向かって聞かれる事はなかった。
このまま互いに年老いても、ずっと一緒にいる事で、分かってもらおうという魂胆だ。ズバリ言われるよりは、その方が親たちのショックも少ないかと・・・、そんな逃げ根性でいたんだけど。


「ねえ、はじめママは親にカムアウトした時どうだった?」
これはすごくナイーブな質問で、普段は聞く事もなかったが.....。

「アタシはねえ、兄ちゃんに話しただけなのよ。両親はもう他界しちゃってんの。だから、死ぬまで知らないまま・・・。時々胸が痛むのよねぇ・・・。でも、仕方ないもんね!」

ガタガタと、奥の椅子を引きずりながら話してくれるが、真面目な顔が時折伏し目がちになる。

「そうか・・・。俺も、そうなるのかな・・・。」
ボソッと呟くと、「チハヤクンのご両親なら分かってくれそうじゃない。結構楽しそうな人たちだもの。」と笑う。

「いや、あの人達はマジで頓着なさすぎっていうか・・・。その方が結構怖いっていうかさ。誰にでも言っちゃいそうじゃん、俺がゲイだって・・・。」

焦っていう俺に、ニッコリ笑いながら「・・・そうね、確かに、それはそれで怖いわ。」といい、腰に手をやると店内を見回す。

「まあ、時が解決してくれることもあるわね?!」
「うん。」

二人で目を合わすと、肩をキュッとあげて笑い合った。




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