【曼珠沙華】 炎に落ちる093


 日曜日ともなると、女の子のお客さんも増えるが、大抵はカップルで来店してくれる事が多い。

俺の店に置いてある商品は、すべてが自分でセレクトしたものばかり。
海外で仕入れた物もあれば、国内の地方で作られた素朴なガラスのコップもあったりする。

例えば、フランスで手に入れたカフェオレボールは両手を添えて飲むのに丁度いいし、たっぷりのミルクを注いでも溢れる事はない。

それから男性にウケているのは、フレグランスボディバーム。
これはスティックタイプで、外出用にバッグに入れておいても使えるから、瓶に入っている物よりは重宝するみたいで。
ここへ来る男の客は、結構買って行ってくれた。
たまに、俺の付けている物と同じ香りを求める客もいて、内心はちょっと複雑。それでも、売り上げが伸びると嬉しい。

1000円のマグカップから10万円以上もする腕時計も置いてある店内は、ホントに俺の好きな物ばっかりだった。
子供のころから夢に描いた仕事。それは洋服の販売もそうだったが、自分の感性で集めたものを誰かが共鳴してくれて購入してくれること。この歳でそれが出来たのは手を貸してくれた天野さんの力もあったが、応援してくれる桂や友人の存在も大きい。

俺はみんなに感謝している。
ここで、こうして好きな物に囲まれて、好きな人たちの中で歳をとっていく。
それが、俺の一番の幸せと感じていた。


「小金井の店って、いっつも人が入ってんな。」
そう声を掛けながら店先に立つのは、高校時代の同級生、柴田だった。

「おお、久しぶり。元気してたか?」

「ああ、まあな。・・・お前は?」

「俺は変わんないよ。・・一年ぶりか?」

「そうだな・・・。」

ちょっと頭を掻いて、棚の上のTシャツを手に取った。

柴田とは、大学の途中まで一緒だったが、突然中退をして以来は、年に一度くらいしか顔を合わせなかった。

「そういえば、長谷川、結婚するってな。」
柴田が俺に言うが、「うん、そうらしいな。」と返事をする。
28歳という年齢は、そろそろ結婚を意識する頃。

男でも女でも、適齢期ってもんがあるらしい。

俺には全く関係のない話だと思っているが、甥っ子の謙を見ていると子供の存在を意識する事もあった。

「結婚式の案内状もらったんだけどさ、小金井行く?お前が行くんならオレも便乗しようかと思ってさ。」
柴田がそんな事を言うなんて・・・。でも、なんとなく気持ちは分かった。

学生から少し離れてしまった柴田と俺たちの間には微妙に通う空気が違ってきていて、俺や長谷川と距離をおくのも分かる。
それが、結婚の案内状で又昔の繋がりが復活するんだ。柴田にしてみたら、ちょっと不安な気持ちもあるんだろうか・・・。

「行くよ。6月には桂も外国に行っちゃうしさ、また遊び仲間が減るのは寂しいけどな、長谷川の幸せを喜んでやらないと。」

カウンターの奥で、商品を並べながら俺が言うと、柴田も手を出して手伝ってくれる。

「そうだな。長谷川の幸せを喜んでやらないと、だな。じゃあ、オレも行くわ。一緒に行くから寄っていい?」

「おお、いいよ。俺、桂の家に居るからさ、呼びに来てくれ。」

「うん、分かった。」
そういうと、柴田は俺に微笑んで、少し安堵の表情になる。

しばらくぶりに会いに来てくれて、少しだけ現状報告をし合ってから、柴田とは別れた。
昔、俺に告白をしてきた中島さんという女の子とは、大学を辞めてから別れてしまったらしい。
その後は、会うたびに違う女の子の名前が出てきたが、今は誰も付き合っている人はいないそうで・・・。
サラリーマンをしている柴田の背中は、少しだけ疲れているようだった。


柴田と比べると、俺は同じ空間に漂っているだけの様な気がして・・・。ちょっとだけ焦る気持ちもある。


俺の現状報告は、桂が俺から離れて遠くへ行ってしまうという事だけ。
ただ、未だにピンと来なくて、このぬるま湯に浸かりっ放しの俺が、桂と離れて暮らしていけるのか、それだけが未知数の不安材料だった。







- - - 

店の閉店準備を済ませると、外へ出てシャッターを降ろすところだったが、近寄る影に振り向くと、俺の顔は一気に華やいだ。

「桂・・・。早かったじゃん。もう終わり?」

「ああ、来週からあっちへ行くからな、今週は定時に帰っていいってさ。」

「そうか・・・。まあ、良かったよ。ゆっくり出来るって事だもんな。どっか飯でも食いにいく?」

シャッターのカギを掛けると立ち上がった俺は、桂の方を向くと聞いてみた。
少しだけホッとした顔の桂が笑う。眼鏡の奥で細い目が三日月の様になると、「ファミレス行こうか。」といった。

「ファミレス?・・・そんなとこでいいのか?」
呆気に取られて聞いている俺に、「いいんだよ。そこがオレと千早には一番似合ってるんだから。」と言う。

まあ、確かに高級料亭とかフランス料理なんて、俺たちには似合わないけどな。
でも、長く離れるんだし、思い出に最高級の料理を堪能するのもいいのに・・・。

ちょっとふてくされるように、「いいけどさ、桂が行きたいって言うんなら・・・。」と言って桂の腕を掴む。

「オレは、ご飯に時間かけるより、千早と家でまったりしたいんだよ。だから、食ったらさっさと家に帰るからな。」
桂が俺の掴んだ腕を反対の手でトントンと叩いた。

「もう・・・・・そういう事を言うぅ・・・・。ずるいな。」

「別に、本心だから、ずるくなんかないよ。それとも、千早は美味しい料理を時間かけて食いたい?オレとまったりしたくない?」

そう聞かれると、何にも言えなくなる。

「・・・・・早くファミレス行こっ!!」

俺は桂の腕をさらに強く掴むと、軽い足取りでファミレスへと向かって歩いた。





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