【曼珠沙華】 炎に落ちる094



 いつものファミレスに着いた俺たちは、奥の開いている席に座ると、またいつものメニューを頼んだ。

俺はハンバーグのセット。
桂は、ミックスグリルのセットで、いつもデザートにアイスのジェラートを頼んでいる。

高校から注文する料理が変わっていなくて、自分でも飽きずに食っているなと感心する。
いつもの店のいつもの場所で、俺と桂の10年が刻み込まれているんだ。これほど居心地のいい場所はなかったけど、これからしばらくは桂抜きで来ることになりそうだ。そう思うとなんだか感慨深い。


「お待たせしました。」
その声で、俺たちの腹の虫が大きな音をたてる。

ゆっくり話す間もなく、目の前の皿をペロリと平らげると、俺たちは顔を見合った。

あとは、桂のジェラートを待つばかり。

と、その時、「こんばんは。食事終わったんだ?!」という声が背中から聞こえてきた。

振り返ってみる前の、向かいに座った桂の反応で、その声の主が分かったが、一応俺は後ろを見てみた。


「天野さん・・・。」
やっぱり、という感じだが、10年経った今でも桂は天野さんに対してだけいい顔をしなかった。

まあ、俺が関係した相手だし、いつまでも天野さんに懐いているのが気に入らないんだろう。そういう所は、少し子供っぽい。
ヤキモチを焼かれて嬉しいのは最初だけで、段々面倒になってくるんだ。だから、俺も出来るだけ用事がない限りは天野さんに近付かないでいた。

「なんか、もう帰るみたいな感じだねぇ。オレも一緒しようと思ったんだけど・・・。」

そう言いながらも、俺たちのテーブルに来ると、桂の隣に座り込んだ。

「アイス食ったら帰りますけど・・・。」
桂が隣の天野さんに言う。ちらりと横目で、邪魔そうに言うもんだから、俺はハラハラしてしまうんだ。

「あ、いいよ、気にしないで。」
当の天野さんは、桂の気持ちを知りながら遊んでいるのか、すぐに俺たちの間に入りたがった。
しかも、向かいに座る俺の顔を見てはにこやかに話しかけてくるもんだから、益々桂の眉間のしわが深くなる。

「そういえば、桂くん仕事で日本を離れるって聞いたけど、ホント?」

「え?・・・誰に?」
俺は、天野さんに話した覚えはないから聞いてみると、「千早くんのお母さんが言ってたよ。さっきまで店のプランターの手入れに来てもらってた。」と言った。

- オフクロ・・・・!!

「ホントですよ。来週、日本を発ちます。・・・でも、千早を誘惑するのは止めて下さいね。ちゃんとチェック入れますから。」

桂は、運ばれてきたジェラートにスプーンを入れると、大きな口を開けて一気に頬張った。

もう、この場を早く去りたいという気持ちの現れなのか・・・。冷たいのに、我慢しながら口に押し込む。

「桂・・・、天野さんだってそんなに暇じゃないんだ。俺の事なんか別に・・・。」
ちょっと引きつりながら言うが、向かいで天野さんが嬉しそうにニヤニヤしていた。その顔はイタズラ好きの小僧の様で、全くこの二人に挟まれると、俺の心臓は落ち着かない。これは完全に遊ばれているんだと思うんだけど・・・。

「まあ、桂くんは気兼ねなく海外に羽ばたくといいよ。仕事だもんな。千早くんにはオレ、何もしないしさ。」

天野さんのいい方にも、少しのトゲが見え隠れする。

「桂、もう食ったんなら帰る?」そう言って伝票に手をかけた。
その時、俺のその手を天野さんがそっと掴んで、「これはオレが・・。桂くんへの餞別って事で。」と言って伝票を自分に引き寄せる。

「あ、・・・でも。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。ご馳走様でした。」

桂は、キョトンとする俺の前で立ち上がると、天野さんに一礼して俺の手を取った。

「え?・・・あ、桂・・・。」

そのまま、引きずられるように、俺は桂と店を出る。


瞬きだけで、天野さんにお礼を告げたつもりだが、分かってくれただろうか・・・。






来る前に言っていた通り、速攻で家に戻った俺たちは、すぐに風呂を沸かすと一緒に浸かった。

昔ながらの浴室は、風通しが良くて肩までお湯に浸からないと冷えてしまいそうだった。

男が二人で入るには、いささか狭い気もするけど、桂は言い出したらきかない所もあって、無理して湯船に浸かる俺は向かい合って座る桂の肩に自分の足を乗せた。

「狭いんだって・・・。この風呂はさ、・・・・ラブホの風呂とはちがうんだから・・・。」
俺が言いながら、桂の顔をじっと見る。

「ラブホ行けばよかったな・・・。失敗した。」

本当に残念そうに言う桂がおかしくて、俺はおもわず笑ってしまう。

「ハハハハ、やだな~、男が二人でラブホなんか入れねぇって!!」

「え?・・・そうなのか?客を選ぶんだ?!」

桂は真面目な顔で聞いてくる。なんだか、拍子抜けした俺は、桂の肩に置いた足をざぶんと湯につけた。
その時、桂の顔に水しぶきがかかり、思わず俺の足を取ると、上に持ち上げる。

「ぶあっ、、、、、」

俺は足を持たれて思わず顔が湯船に浸かってしまい、焦ってジタバタとなるが、桂の腕に抱き寄せられて水を飲まずに済んだ。


「も、っうぅ~~~~。溺れるだろ。ば~か。」
そう言って顔に掛かった滴を手で拭った。

「バカはお前だよ、バ~カ。」
桂は、俺を抱き寄せると耳朶を噛んでくる。

「ちょ、ッと・・・・」

こんな狭い場所で何を始めようって言うんだ。
尚も俺の耳朶に唇を這わせると、今度は耳の穴に舌を入れてきた。

「も、・・・っ、ヤダって・・・。」

狭い風呂の中では、跳ね除ける事も出来ない。
ギュっと背中に腕を回されて、俺はただ桂の舌を受け入れていた。






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