【曼珠沙華】 炎に落ちる110


 湿気のこもった小さな部屋で、用意された夕食を頬張っていると、コンコン、とドアを叩く音がした。

「はい。.........どうぞ」

そう声を掛けると、ベッドの横のテーブルに皿を置いて立ち上がる。

ギッ、という音でドアが開くと、そこに居たのは日本人の男性。
歳は俺の親父より少し上ぐらいで、白髪交じりの短髪にワイシャツとネクタイ姿。
ビジネスマンらしい姿は、この場所には似合わなくて。

「......友田さんのご家族ですか?はじめまして。」
男性がお辞儀をしながらも俺とアネキの顔を見た。

「.....あ、はい。......えっと、」
俺がお辞儀をしながら言う。初めて出会う人だったし、ひょっとして友田さんの上司なのかと思った。
アネキもドアに近寄ると「はじめまして。」と挨拶をした。

「 私、桂の父です。.....友田さんには大変お世話になっていたと聞いておりました。この度は.......」
深々と頭を下げたその人は、あの、桂の父親だった。

「か、つらさん......ですか?!......あの、小金井です。同級生の........」
そういうと、顔を上げた父親の顔を見た。

「小金井、くん。........秀治と暮らしている?!」
「.....はい。大学からあの家で暮らしていました。今も.......すみません、ご挨拶もしないままで。」

俺たちはじっと互いの顔を見合うが、言葉に困る。

「はじめまして、友田の妻です。桂くんには子供のころから私たち姉弟もお世話になっていました。」
間に入ったアネキの言葉でホッとする。

部屋の中に案内すると、椅子に腰かけた桂の父親はもう一度俺の顔を見る。

なんとなく、こんな時なのにバツが悪くて。
俺と桂の関係を知らせてはいないけど、あんまり見られると恥ずかしくなった。

「大学の頃から、この仕事に携わりたいと願っていましたから、本人は後悔していないでしょう。」
今度はアネキの顔を見ると言った。
大学の頃、俺は桂から一度もこの父親の話を聞いた事がなかった。
それでも、こうして桂の夢を知っていたという事は、父親と話をしていたんだと思った。

「あの、ニューヨークから来られたんですか?」
「いえ、.......今はカナダに拠点を置いています。実は再婚して、カナダに家もあるんです。」

「......そうなんですか、再婚.........。」

初めて聞く話に戸惑うが、桂の父親も息子の消息を心配して来たんだ。
俺たち同様、心を痛めている。

「すみません、お疲れの所を.........。今夜はこれで。」
そう言って立ち上がると、父親は俺たちにまたお辞儀をした。
ドアの外まで行くと、二人で父親を見送る。その背中は少しまあるく見えた。

「初めてだね、桂くんのお父さんに会うのって.........。」
そう言ってアネキは目を丸くした。

「再婚しているなんて聞いた事ない。アイツ、何にも言わないから......。」
俺はアネキに言うが、今まで何も話してくれなかった事に腹を立てていた。
父親に、将来の仕事の事とか話せていたんなら良かったけど、別に親子の仲をどうこう言うつもりもないのに、どうして黙っていたのか分からない。遠慮なんかする事でもないし.........。


ベッドに入ってからも、俺の心は別の事でざわつきだしていた。
桂や友田さんの事が心配でたまらないのに.......。
........桂のヤツ...........





相変わらず、朝を迎えても空は重たい雲が広がるだけで、捜索の進展もないまま時間だけが過ぎて行く。


少しでも、近くで様子を見たいという家族が川のほとりに佇む。その姿が痛々しい。

「あたしたちが到着する前から捜索は続いているのに.........、いつになったら分かるんだろう。範囲も広げているっていうのに....。」
「アネキ.......」

そろそろ家族の疲労もピークになってきたのか。
ここまでの道のりも大変だったし、宿舎に充てられた部屋も日本の宿とは比べ物にならない。
みんな疲れているんだ。

「部屋で横になってればいいよ。謙も疲れているし、俺がここで待機するから。」
そういうと、うん、と言ってアネキが部屋に戻って行った。

その後ろから、謙がアネキの背中に隠れるようについて行く。
めっきり口数の減った謙が心配になった。あんな小さな体で、いろんな思いを耐え忍んでいるんだ。
病気にならなきゃいいんだが........。

そう思った俺の視界には、食堂から出てきた桂の父親が入ってきた。
今日はTシャツにラフなパンツ姿で、こちらに近付くと、「おはようございます。」という。

「あ、おはようございます。」
俺も挨拶を交わすが、なんとなく外に目をやりながら、隣に立つ桂の父親に意識が行く。


「秀治は、どんな子でしたか?」
「え?」
外を眺める俺の横で、急に聞かれて向き直った。

「中学の頃に、両親にあの子を預けっぱなしで、気にはなっていたんです。
でも、アメリカには来たくないと、.....友達がいるから日本に残ると言って......。
それきり、私たちが離婚した後も祖父母の面倒を見てくれて。
たまには電話で話しましたが、聞くのは君の事ばかりでした。」

「......俺の?」

「そう、一緒に暮らしたいというので笑ってしまって......
そういうのは、彼女と同棲するとか結婚するとかの話だろうと、言ったんです。」

「.....................」

「息子が、そういう子だとは思ってもみなくて
正直、驚きを隠せませんでした。」

「...................、何か言ったんですか?アイツ」

「ええ、法律で許されるなら、君と、チハヤと結婚する、と。」




「.....................」






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