境界線の果てには。(025)

トビラの向こうでは、静かなジャズが流れていて、一瞬どこかの店に間違って入ってしまったのかと思う程、雰囲気のいい病院だった。

受付には珍しく男性の看護士がいて、小柄だが筋肉質の体格が服の上からも分かる。

「…ア,…」

広斗が躊躇していると、受付の男性が優しい笑顔で「初めてですか?」と聞いてきた。

「はい」と言って保険証を取り出した広斗の名前を見ると、その人はもう一度顔を上げて広斗の顔を見た。

…?

その仕草が気になったが、とりあえず記入項目が書かれた用紙を渡されたので、奥の椅子に座って読み始めた広斗。

何だか細かい質問事項で、とてもすぐ書けるものではない。


-なんだよ、細けぇなぁ……


2頁目に入って、うんざりしていた広斗の手元に影が映ったので、ふと顔を上げる。

…ぁ……

そこに居たのは、ここの医師《末永》だった。

「やぁ。」と、3年振りとは思えない軽い挨拶に、絶句する広斗だったが、相変わらずの優しい眼差しに安心する。

「こんにちは、母親から聞いて。………大学病院クビになったかと思った。」

広斗の言葉に、大きく目を見開き、「べ」と舌を出す。

-ハハ--
こういうところも変わってないや。

「ちょうど患者さん切れたところだから、こっちで書きながら話そうよ。」
そういうと、広斗の肘を掴みカウンセリング室へと連れて行った。

この末永医師は見た目が若くて、17歳の俺にとっては兄貴みたいな感じだったんだけど、実年齢は俺より12歳も年上。騙されたって思った。

「ここに来たっていうことは……まだ倒れる事があると?」
広斗の手元を見ながら、末永が聞いてきた。

「……そう…。でも、ここ1年ぐらいは大丈夫だったんだけど、最近、ていうか今日倒れて…。外の工事中のクレーン車見ただけなのに。」

「ふうん、そうか………。ビックリしただろうね……でも、怪我はしてないみたいだ。」
ひととおり上から下まで広斗を眺めた末永が言う。

「まあ、授業が終わったところで、隣の奴が受け止めてくれたんで。」

「へぇ、その子は親しい人なんだねぇ。」

そう言われて、一瞬自分の頬が熱を発したような気がする。

末永は、記入項目の用紙を広斗から受け取ると、テーブルを挟んで斜め前に座った。

真正面からでなく、斜め前から首だけ傾けて話す。

時折、記入された文字を確認しているのか、自分は話しながらも目線は下に向けたまま。


-スゲーな、同時に違う事できるんだ??俺なら、読みながら別の事しゃべるなんて無理。


広斗が1人で感心していると、末永は急に立ち上がり、今度はピッタリ寄りそう様に広斗の真横へ座る。

拙いお話に拍手をいただけるなんて。。
有難うございます。励みになります。

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