【曼珠沙華】 炎に落ちる122



 「その先の信号を右に.......」



おーはら君と二人でタクシーを降りる。
自分で意識しないままこの家を出て歩いて行ったんだろうか。

玄関のカギも閉めずに不用心だ。
桂の家だというのに...........

「年季の入った家ですね。.......って、ここ桂って表札になってますけど。」

「ああ、いいんだ。ここが俺の家。」
そう言って中に入った時だった。

「千早?!.........どこ行ってたのよ!!!探しちゃったじゃない!!!」
「......................」

背中で大きな声がして、アネキの声だと分かったけど驚いて振り返った。

「あ、.........ごめん。」
訳が分からないが、取り敢えず心配していたようなので謝った。

「こちらは?」
おーはら君の顔を見ると聞いてくる。
どう見たって高校生だし、こんな時間にここに居る事はおかしい。

「.......えっと、僕は大原と言います。小金井さんのお店に行ったことあって.........」
そういうと俺の顔を見直した。この先の言葉が見つからないのか.........。

「おはよう。.......えっと、ごめんなさいね、ちょっとゴタゴタしてて。」

「ああ、いいんです。僕はこれで.........学校に戻ります。」
玄関先でおーはら君は帰ろうとするが、「待って。ちょっと待ってて。」と言ってアネキが引き留めた。



「とにかく上がって。あたしの家じゃないけど、今はいいから。どうぞ.........、千早も、早く.........」
「.........はい。」


おーはら君のシューズを脱いで上がろうとするが、今頃になって足の裏が痛み出した。

「ちょッ..........なに?傷だらけじゃない!.........あたし家から消毒と包帯持ってくるから。とにかく上がって待ってなさい。」
けたたましくアネキが言うと、実家の花屋の方に走って行った。




「.........元気なお姉さんですね。」
「........まぁ、.........ごめんな、付き合わせちゃって。」
「いいですよ。とにかく、風呂場で足を洗いましょうか。」
「.........ん。」




ズボンを脱いで浴槽の淵に腰を掛けると、おーはら君が俺の足にシャワーの水を掛けてくれる。

足の裏の汚れを指でゴシゴシと擦られて、なんだか子供みたいだと可笑しくなった。

「痛くないですか?滲みます?切れてはいないみたいだけど........」

「大丈夫、ひりひりするだけ。」


俺の足元でしゃがんでいる姿を見ながら、ぼんやりとしてしまう。
おーはら君の揺れる髪の毛が、斜め上から見ると桂の様に思えて、つい手を伸ばしてしまった。

指先にその一束を掴むと、こすり合わせるように感触を味わう。
柔らかい。少しだけクセのある髪は、日の光を浴びると茶色く透けた。
桂もこんな髪だったな.........。

おーはら君は、俺のする事になんの反応も見せないまま、ただ足の汚れを擦っていた。



「これ、消毒薬と塗り薬。一応包帯も持ってきたから.....。」
アネキが脱衣所から顔を覗かせると俺たちに声を掛ける。

「ありがと。」
聞こえるように声を張り上げると、クスッとおーはら君が笑った。



居間で顔を突き合わせる俺たちだったが、何から話せばいいのか分からず、アネキは俺の顔をじっと見るし、俺はおーはら君の顔を。
そしておーはら君はいたたまれず下を向く。


「.........桂くんのお父さんから、今朝連絡をもらったの。
千早にはメールで知らせたって言ってた。
で、今朝電話を入れたら全く繋がらないって。アンタ、携帯を庭に落としたままだったでしょ。」

「.........多分.........」
俺の記憶はどこら辺から無くなったんだろう。
まったく思い出せないでいた。

「............残念だわ。.........どこかでは、こういう事になるかもしれないと思っていたけど、現実になると......なんて言っていいのか.....。」

「あの、.........よく分からないんですが、この家の桂さんに何かあったんですか?」

「.................」

「小金井さん、土手で彼岸花に埋もれて寝ていたんです。さっきまで。」

「え?.........まさか、それで足を怪我してるの?」
「裸足で歩いて来たらしいです。」

「.......千早.......」

目の前のアネキとおーはら君の会話を聞きながら、何処かの別人の話をしているような気がして。
俺は、ただぼんやりと庭の方に視線を向けると眺めていた。

「とにかく、桂さんには無事だと伝えたから。うちの親にも!!
まったく.........後を追ったんじゃないかって、...............アタシ................ぅ、ッ」
そこまで言うと、何があっても泣かないと言ってたアネキが泣き出した。



「あの、.........その方、亡くなったんですか?」
おーはら君がアネキの方を見ると聞いた。

うん、うん、と首だけ大きく頷いて答えると、立ち上がって台所の方へ行く。



小さくしゃくりあげる声を聞きながら、やっぱりどこか人ごとの様な気がしてきて、俺は庭先をぼんやり眺めるしかなかった。






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