【曼珠沙華】 炎に落ちる126



 翌日、目を覚ましたのは昼を少しまわった時間だった。

寝る前にオフクロのおにぎりを食べたせいか、腹は減っていない。
しばらくは、ベッドの上で上体を起こしてぼんやりとしていた俺。
それでも、心配をかけてはと思いリビングに降りて行った。

「おはよう、眠れた?」
「.....ああ、結構寝た。」

台所で昼の準備をする母親に言うと、テーブルについた。
ここで食べる朝食の時間は、戦場のように慌ただしかった事を思い出す。
そんな時でも、オフクロは桂の事を聞きたがって、俺と桂が距離をおいていた頃は少し苦痛だった。
高一の頃は避けていたが、結局俺たちはくっついて、一緒に暮らすまでになったというのに........

ぼんやりした頭で、窓から見える景色に目をやると、俺の前にコーヒーカップを置かれて、また目を落とす。

「千早、店の方はいいの?........」
オフクロに聞かれて、そう言えば頭の中から店の事がすっぽり抜けていた事に気づいた。
...........まぁ、どのみち最近は開いている方が少ない店だ、特に気に留める人もいないだろう。
そんな事をオフクロに言えば、
「そんな気持ちで商売なんかやるんじゃないわよ。自分で始めた店でしょう?」

「.....そうだけど、........こんな気持ちで客商売なんか.........」
コーヒーカップを握り締めるという。

「商売はねぇ、自分の為にやるんじゃないのよ。来てくれるお客さんの為にするの。
ひとりが喜んでくれたら、自分も嬉しい。誰かに必要とされる事は自分が生きていく為の力になるんだから。」

「.......そんな事.......」
分かっている、と言いかけて、この言葉をどこかで聞いた気がした。

.......そうだ、友田さんも、桂も言っていたっけ。
未開の地の川に架かる橋は、行き来する人に喜んでもらえるって。
それは、そこで暮らす人たちの為になっているし、その手助けができる事が自分たちの喜びだって言っていた。


「桂くんのお父さんから連絡があるまでは、貼り紙して休業もいいけど、落ち着いたらお店、開けなさいよ。」

「............うん、......そうするよ」




俺は甘えていたんだろうか。
桂の死を受け止める事が出来ないで、自分の身を持て余している。
アネキが心配したように、桂の後を追って.........
なんて事が、頭のどこかにあるのかもしれない。

彼岸花の毒が本当かどうか、それは知らないんだ。
けど、本当だったらあんな所に生えてやしないだろうと思っている。

あの時、俺が口に入れてしまえば、それを確かめられたのに.........

どうしておーはら君は知っていたんだろう..........


それにしても、十も離れた少年に助けられるなんて、俺って本当に情けない.....。








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