【曼珠沙華】 炎に落ちる131



 納骨を済ませてから二週間。
俺は髪をカットする為、天野さんの美容室に来ていた。


「少しは落ち着いたか?」
「.....ええ、」

天野さんが、鏡の中に映った俺を見つめるが、その眼差しは悲哀に満ちている。

「もう、落ち込んでても仕方ないから........、桂は帰って来たんだし、あの世でのんびりやっているでしょうよ。俺は、俺の出来る事をしないと.........アイツに叱られる。」

天野さんの目を見ながら言うと、少しだけ表情もほぐれた。気にかけてくれるのは嬉しいけど、いつまでも情けない姿は見せたくないもんな。俺だって男だし、女々しいと思われたくなかった。

「真面目なヤツだったもんな、桂くんは。.....千早くんがちゃんと前向きになってくれてて良かった。」

「.......はい、前向きに仕事も頑張るんで。」
少し笑いながら言うと、「それがいいよ。」と天野さんも微笑んだ。

髪を切ると言っても、相変わらずの長髪は保ったまま。
どうしても、天野さんはこのスタイルにこだわる。俺のイメージは長髪のままだそうだ。



「あ、そういえばこの間、隣町の美容学校へ入るって子がバイトの面接に来てさぁ、千早くんの雑貨屋に応募したらダメだったって。」

「え?........誰だろう........、バイトは大学生が一人来ているんですけど、他に応募はなかったけどなぁ。」

俺は、納骨が済んだ2日後に休業の貼り紙を剥し、代わりにアルバイト募集の紙を貼った。
じっとりした負の空気で淀んだ俺の店をちゃんと軌道に乗せるために、バイトを雇って買い付けにも行くつもりで......。

すぐに応募して来たのは、大学2年生の男の子で。
客として何度かは来ていたことがあり、商品の事も良く把握していたので、即決したんだ。
応募してきたのはその子一人だったはず。

「なんていうか.........、うちに面接に来た高校生、多分ゲイだね。オレはそう感じたんだけどさ。」
一応、周りに人がいないのを確認すると、天野さんが小声で言う。

「.........」

それを聞いて、少し複雑な思いが蘇った。
俺が高校生の頃、自分の性癖に悩んで天野さんに救いを求めた事がある。
まさか、そいつも.........?

「天野さん、ひょっとして喜んでます?バイトオッケーしたんですか?」
俺が含みを持たせて聞いてみると、ニヤリと口元が上がる。

「あのさぁ、オレもう36だよ?!高校生相手にするには.........最近腹の出具合も気になるし、無理無理。でも、合格したらバイトに来てもいいって言っといた。」
そう言いながらも、まんざらでもない様子。想像はしたんだな、と思った。

「けど、......千早くんが仕事をやる気になってくれて良かった。安心したよ。」

「はい、......これから頑張るんで、なんか美味しい話でもあったら誘ってくださいね。」

「オッケー、美味しいかどうかは分からないけど、色々手伝ってもらいたい事業はあるんだ。」
天野さんが、俺の後ろで仕上げを済ませると言った。首のタオルが外されると、椅子から立ち上がってレジに向かう。
料金を支払いながら、「じゃあ、宜しくお願いします。電話待ってますね。」というと、ドアを開けて店を出た。

有難うございました~。という声を背中に受けながら、さっきのバイトの子が誰なのか気になる。
まあ、どのみち高校生じゃ無理だとは思うけどな.......。



桂の家も、出る用意をしなければ。
俺がいつまでも居座ってちゃダメだよな。あそこが無くなるとしても、俺が桂と暮らした記憶は無くならない。
何処にいたって、俺は桂がくれた指輪と共にこれからも生きて行くんだから。


バイトに来ていた大学生の吉田くんに、店を預けて出てきた俺は、早く戻ろうと有楽街の細い抜け道に入った。
すると、俺の目の先に見えた光景に、思わず身体が硬直してしまう。


「....なに、を....してんだ?!」

「あっ!!!......え、っと.........な、なにも。コイツがっ!!」
「..........................」


バタバタと足音を立てて走り去る中年の男。
男が去った後の地面で、膝を立てて振り返って俺を見たのは...........。


「おーはら、くん........何、してんだ?!こんな所で........」
「..................見ればわかるでしょ。.........うり、ですよ。」


「うり?.........お前が?」
「そう。ここは滅多に人が来ないし、この時間は飲み屋に向かうおじさんが多いから。」

立ち上がってシャツのボタンをはめると言ったが、視線は斜め下に落としたまま。
バツが悪そうに眉根にシワを寄せてはいるが、逃げる気配はないようで。


シャツの袖で、口を拭っている姿を見たら、俺は自然におーはら君の腕を掴んで歩き出していた。






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