【曼珠沙華】 炎に落ちる132



 久々に、身体の底から憤りの感情が湧き出てきた。

半ば引きずる様におーはら君を店の中に放り込むと、目を丸くして俺たちを見たのはバイトの吉田くん。

「ど、どーしたんすか?......」

「や、何でもないけど、ちょっと急ぎの話があって.........この子と。」

「は、あ......じゃあ、オレ休憩してきていいすか?」

「うん、いいよ。....ていうか、今日はもうあがっていいや。後は俺が居るから。」

「..........はい、じゃあ、そうさせてもらいます。.....お疲れっした~。」
「お疲れ.......」


吉田くんの背中を見送ると、カウンターの横の椅子におーはら君を腰掛けさせる。

店の中には客が居なくて、そろそろ閉店の時間だしと思った俺は、早めに店のドアに(closed)の看板を掲げた。
その様子を見ていたおーはら君が「なんか、営業の邪魔をしてしまって.....すみません。」と言った。

この少年の中に在る素直な部分と、さっきの様な冷めきった部分がものすごく対照的で、俺じゃなくても気になるだろうと思った。
見かけは可愛い感じの少年なのに.........。

「学校は?」という俺の質問に、「ちゃんと行ってますよ。熱が出たって学校を休んだことはないんです。.....この前、小金井さんを送ったときがはじめてかな。」と言われる。

そう言われると、返す言葉もないが、今日の事はまた別の話で.......。

「うりなんかして、そんなに金に困ってるのか?......おじさんの家で暮らしているんだろ?」
俺が向かい合って聞くが、おーはら君は目も合わせず下を向いたまま。

「おじさん、といっても血の繋がりなんかないんで。母親が一緒に暮らすって、勝手に決めて。あかの他人ですよ。」

「え?......じゃあ、お母さんは一緒に暮らしているんだろ?!」
この前は、確か親に捨てられたと言っていた。

「一週間。.......おじさんの家に引っ越しして、一週間したら姿を消していました。僕を残して、ね。」

「.......................、なんで、.................」

「うち、母子家庭で、母親は飲み屋の雇われママになっていて........、店がヤバくなったから逃げたんでしょ、オーナーと。」

「.........え?.......おじさんて人は?」

「そんなの、僕を置き去りにするための宿主ぐらいにしか思ってないですよ、あの人。おじさんも途方に暮れちゃって.......。」

耳に入るおーはら君の言葉を聞いて、身体に衝撃が走る。
桂の家庭の事情だって複雑だと思っていた俺。
正直、俺の家の人間は変わり者でも、家庭としてはごく平凡な家庭だった。だから、親の離婚ぐらいじゃ驚かないが、おーはら君のそれはあまりにも桁外れで。

「金は?お前の母親、ちゃんと学費は置いていってくれたんだろ?!......あ、.......おじさんが飲みやパチンコに.....って?」

「家には置いてやるけど、金は自分で稼げって。母親の置いてった金は自分が貢いだ分だからって.....出してくれなくて。」

「....................まったく、.............こんな話聞くんじゃなかった。」
思わず口から出てしまった本音だった。やっと、桂の事も落ち着いて考えることが出来てきたのに.....。
桂に似た感じのこの少年を犯してしまった俺が、こんな事を言うのもおかしいが、ロクな大人に囲まれてないな、と思った。
時折見せる表情は、こういう背景を背負っているからなのか。

「帰ります。.......小金井さんに話したってどうにもならない事ですし。もうすぐ入学金は貯まるんで、専門学校入ったらバイトすればなんとかなるし。じゃあ、お邪魔しました。」

そう言って椅子から立ち上がると、ジャケットとデイパックを手に持った。

「...........」

おーはら君の後ろ姿を見ながら、「はぁぁぁあ~」と大きくため息をつく俺。

「その後ろ姿を見たら.........ダメ、だな。.....取り敢えずうちに来い。飯は食わせてやるから。あと、帰りたくないなら、しばらく泊めてやってもいい。だから、うりはするな。したら追い出す。」

「え?.......いいの?」
「ああ、しばらく、だけならな。俺だってあそこは出なきゃならないんだ。家主が居ないんだからな。」
そういうと、棚の商品に布を被せて帰る準備を始めた。

「手伝います.......」

俺の隣に来ると、おーはら君は大きな布の端を摘んで、奥の棚まで広げる手伝いをしてくれた。


........雲の上で見ているアイツに叱られるかな.........





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