【曼珠沙華】 炎に落ちる142


 実家の香りは相変わらずで。

花の香りの漂う家に住み、長年暮らして来たが、今更ながらその心地よさを実感する。
この香りがどれ程心の癒しになっているのか、此処を離れるまでは分からなかった。

リビングでくつろいでいると、早速寿司が運ばれて来て、一番乗りにマグロを狙った。
が、「まだ、ダメ。ジュン君が来てからよ。」と、待て、を食らう。

「新鮮なうちに食べないと.....。」
その言葉は完全に無視された。

「塔子、謙はお友達のところ?」
母親がアネキに聞いていて、「そう、今夜はそこにお泊りするって。だんだん親の手を離れて行くのよね。」と、淋しそうに話す。

俺は、先日、謙が漏らした言葉を思い出していた。
僕がお母さんを助けなきゃ、って。

謙は謙なりに、色々考えている。だから、俺も手伝いたいと思う。

「なあ、花って口に入れてもいいの?」
と、素朴な疑問を母親にぶつけてみると、
「もちろん。中には毒を持つ物もあるけど、’エディブルフラワー’って言って食用の花があるんだから。」

「へぇ、そうなんだ。食えるのか.....」

「だって、刺身に乗ってる食用菊とかもソレだよ。他にパンジーとかベゴニアとか、バラやカーネーションだって。........なに?」
母親に不思議そうに聞かれて、一瞬戸惑ったが、店を出そうかと思っていることを告げた。

「いいじゃない、そういうお店も。目で楽しむだけじゃなくて、食べたり飲んだりして香りを楽しんでもらうのも有りだと思うわよ。」
「そうだろ?!」

母親に共感してもらえて、ちょっと嬉しくなる。

「千早はそういうのよく考えるよね。あたしなんて、最近やっとフラワーアレンジメントの資格取ったっていうのに。」
アネキが言って、俺は初めて聞いたから驚いた。

「アレンジメント、するんだ?!」と。

「.....その事で、話があるんだよ。」
俺たちを目にした父親が、テレビのリモコンを手に持ってやってきた。
チャンネルを合わせると、少しだけ野球の結果が知りたかったのか、そこだけ見るとテレビを消した。

「こんばんは~。お邪魔しま~す。」
という声で、おーはらがリビングへとくると、一応全員そろった。



やっと、寿司にありつけて、狙っていたマグロに箸を伸ばす。
で、一口で頬張るとそれを堪能した。
隣では、おーはらが甘エビを食べている。顔がニンマリとして、いかにも美味しそうに食べるから可愛くなった。

「それで、話って?」
俺が親父に聞くと、箸を置いてビールに口を付けたが、慌てて俺の方に向くと忘れるところだったという。

「そうそう、その事だ。.....実は、九州のばあさんがボケてきたらしくてな、じいちゃんが俺と母さんに帰って来てくれって言うのさ。」

「え?.....九州に行くの?」

「そう、.....そこで、この店の事だけど、塔子に任せようと思う。友田さんの事もあるけど、待つにしても何にしても、謙や塔子は生きていかなきゃならないんだ。」
「そうだな.....」
親父の言葉に、その通りだと思った。

アネキが友田さんをこの家で待つのは悪い話じゃない。
謙だって花が好きだし、此処にいればアイツも嬉しいだろう。

「俺は、いいことだと思うよ。店はアネキがやっていけばいいし、そうすれば、親父たちが九州から帰って来ても、また続けられるって事だよな。」
「いいの?」
アネキは俺の顔を見る。いいも悪いも、俺は謙が言っていた花のお茶を出す店ってやつを作ってやりたかったんだけど、ここで花屋をやりながら、それも出来るかもしれない。そう思ったら、視界が開けてきた。

「じゃあ、早速来月から準備を始めるから、千早の荷物も出せるように、部屋を借りてくれよな。」
親父に言われて、不動産屋に気に入った物件があったと伝える。
もちろん、おーはらにはまだ話していない。俺が、もうしばらくはおーはらと暮らすつもりだと言って、驚いたようだった。

「嬉しい。僕、どうしようかと思ってたんだけど.....。小金井さんにお世話になってばかりで、申し訳ありません。」
そう言うと、俺の顔をじっと見る。

「別に、世話をしているつもりは無い。飯の支度もしてもらっているし、俺も助かってるから.....、ただし、成人するまでだからな。いずれは自分の稼ぎで部屋も借りて食べていってくれよ。」
念を押すと、おーはらの顔を見る。

「はい、分かりました。」

ニコリと微笑むと、また寿司に手が伸びて、しっかり腹も満たしていた。




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