【曼珠沙華】 炎に落ちる153


 「こんな時間になっちゃって、どうもすみません。」
と、謝ったのは内装業者の人で。時計の針が10時をまわったのを見ると言った。

「いえいえ、とんでもないです、こっちこそ店が終わるの待っててもらって・・・日中に打ち合わせ出来たら良かったんですけど。」
俺は資料をまとめながら言ったが、向こうも「いえいえ」と笑っていた。

「天野さんのご紹介だし、あのビルのテナントはうちがほとんどやらせてもらってますんで、気兼ねしないで下さいね。」

「はい、有難うございます。 助かります。」

「千早くんのパースが分かりやすくて、内田さんもやりやすいでしょ?!」

天野さんが業者の内田さんに言うが、「本当に、そうです。口だけではなかなか伝わらない部分も多いから・・・こうやって施主さんにイメージをもらうと断然違いますよ。」と言ってくれた。

「千早くんはデザインの仕事もしたかったんだよね、まあ、服とかアクセサリーなんかの、だったけどさ。」

「もう、昔の事ですよ。今は店の経営に興味が湧いて、コレも久々にエンピツ持ったぐらいで・・・。」

「や、凄くステキなラフ画ですよ。大きな樹の周りに集う人たちの、幸せそうな感じが出ているし、使われるインテリアの色目なんかも分かりやすくって。」

なんだか両方で褒められると、背中がくすぐったい。
高校の時に好きだった美術が、今頃役にたつなんてな・・・。

「本当にありがとうございます。何とかよろしくお願いしますね。」
「はい、任せて下さい。短期で終われるように頑張りますから。」

互いに握手をすると、内田さんは俺が渡したスケッチブックを抱えて天野さんの部屋を後にする。
こじんまりした背中を見送ると、俺は天野さんに振り返り「今日は有難うございました」と、礼を言った。

本当は俺が一人で決めても良かったんだけど、何件も美容室を造ってきた天野さんに知恵を貸してもらうと心強くて。
つい甘えてしまった。

「礼なんか・・・・。オレも一緒に参加できて嬉しいよ。建築の事なら桂くんに聞けたのにな・・・。残念だけど.......。」

「.............ええ、でも、アイツは俺のやりたいようにやれって言ってくれると思います。俺の性格分かってるし、人の助言を聞く玉じゃないですからね?!」
苦笑いで言うと、天野さんもつられて眉をさげながら笑った。



天野さんの部屋を後にすると、なんとなくはじめママの店の方に足が向く。

頭の片隅におーはらの顔が浮かんでくると、天野さんの言っていた事が気になった。
今更の母親の出現。おーはらの生活費を元カレに預けていたが、それは俺の元へときて、おーはらが入学した時預金通帳はそのままアイツに渡した。いくら居候の身でも、教材費はかかるだろうし、バイト代もそこへ入れて貯めておくように言っておいた。

まさか、とは思うが.............母親にそれを渡しやしないかと不安になる。



小さなゲイバーのドアを開けると、「っらっしゃいませ~え!」と、野太い声で出迎えられて、オッ、となるが、「こんばんは。」と会釈しながら中へ入った。

「あらぁ~、久しぶり。もう、うちの店がここにある事も忘れたんじゃないかと思ったわよぉ。元気してたの?」
相変わらずのママのイヤミ。でも、ちょっと心地いい。

「最後がママの怒った顔じゃ、寝覚めが悪くってね。今夜は笑顔を見せてよね。」
俺がいつもの席につきながら言うと、テーブルに灰皿を置く。

「まったく・・・口だけはいっちょ前になっちゃって・・・。もう、可愛いんだから~ぁ。」
少し機嫌がよくなって、今夜はおしぼりを出してくれる。
「いつもの?」というので頷くと、俺の好きなカクテルを作ってくれてカウンターに置いた。


「ケンちゃんに聞いた?ジュンくんの母親の事。」
グラスを手にした俺に、少しだけトーンをさげて言うと目配せをする。

「...........うん。さっきね。..........どうなの?アイツの様子は?!」
俺はグラスに口を付けながら聞くが、ママは首を横に振るだけ。

おーはらは、ママにも詳しい話はしていないんだろう。俺の元を去って、ママを頼った割には心を開いていないんだな。

なんとなく虚しいような、淋しいような空気に包まれて、俺もママもどうにもならない歯がゆさを感じていた。





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千早とおーはらの関係はどうなるんでしょう・・・
まだまだ安心できないふたりです

こちらにも新たな展開が・・・
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