【曼珠沙華】 炎に落ちる155


 狭い路地裏の汚れた地面の上で、震える身体をどうする事も出来ないおーはらは、ゆっくり顔を上げると俺を見た。

「こ、がねいさん...........、僕、............ッ」
と、言いかけて噴き出したのは、少量の吐物。

うッ、.............ぅぅ..........

暫く道路に伏せる様に嘔吐すると、そのまま横にごろりと横たわった。

「おい、.............お前、酒飲んだのか?」
俺は近づくと、おーはらの背中をさすってやった。肩甲骨が浮き出た、はかなげな背中を撫でると「バカだな、お前は....」と口をついて出る言葉。おーはらに放ったものだったが、それは自分自身に向けた言葉でもあった。

「起きられるか?...........仕方ないな、俺の部屋に来い。風呂に入れてやる。...........そのキタナイ躰、なんとかしろよな。」

そう言って自分が着ていたパーカーを脱ぐと、おーはらの身体を包んだ。そして肩を抱いてやると、そのまま俺のマンションへと向かう。




- - - 

涙と鼻水と、吐物で汚れた顔を濡らしたタオルで拭いてやるが、着ていた服はそっくりそのままゴミ袋に入れた。
下着もすべて剥すと、おーはらが自分の腰に手を当てる。俯いて俺の顔は見ないまま。

「どうした、腰でも打ったか?」そう言って後ろを覗き込んだ俺が目にしたものは.............



「...........、それ何のつもりだ?」

おーはらの腰に当てた手を引き剥す。

「....................」


腰骨の少し下辺りに見えたのは、手のひらに隠れるほどの刺青。
真っ赤に咲いた彼岸花の刺青が、おーはらの白い肌に血の色の様に見えた。

「お前..........、いつ彫ったんだ。うちにいる時は無かったよな?.........いや、あったのか?」
俺は記憶を遡るが、正直言っておーはらの身体を隅々まで見た事はなかった。一番最初にコイツの肌を見たのは、もうろうとした意識の中でだけ。その後は、おーはらの身体を抱き寄せる事もせずに、ただただ、身体を貸していただけだった。


「.............ファッションで彫ったのか。それとも.......」

天野さんが言っていた’ヤバイ奴らとの付き合い’の証とか......?

「これは、小金井さんの所を出てから。.......寂しくて.......」
ハダカを晒したまま答えるおーはらは、うな垂れている。

今のファッション誌やビジュアル系のバンドの奴らを見ると、こんなものは取るに足らない小さなもの。
顔や体中に、さっきの男たちの様にピアスやタトゥーを入れている連中は沢山いる。別に驚く事じゃないが............

「彼岸花って.............なんていうか..............渋すぎ。」
俺は頭を掻いた。そしてフッと笑うとおーはらを風呂場へ連れて行く。

「自分の身体だし、他人がとやかく言う事じゃないけど、寂しくて刺青やピアスをするっていうのはどうなんだ?!それって、楽しいのか。」
俺は自分がそういうものをしないからわからない。痛いのは嫌だし、自分の身体をキャンバス代わりにしたいと思ったこともない。

「楽しくなんか............」
おーはらはそう言いながら風呂場のドアを開けた。

「これ’彼岸花’は、僕と小金井さんを結び付けてくれたものだから.......忘れたくなかった。ここにあれば、寂しくないかと思って.....」

そう言った後、ゆっくりドアを閉めると中に入って行った。

「.................」
半分透けたアクリルのドアを目の前にして、俺は脳天を叩かれた思いがした。
おーはらの、深い心の闇に、俺は何をしてやるつもりだったんだろう。



こちらに別のお話 【カザミドリ】置かせて頂きます
千早くんが............................汗タラーッです( ゚Д゚)   

【カザミドリ】〔風見鶏〕僕を見ないで11

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