『君と まわり道』 07


 ダイニングバー’マシュー’の中で、オレの周りだけ空気が凍り付いたように感じた。
『松原あけみ』という名前を聞いて、オレの身体は硬直する。拓海がオレに通夜の事を言わなかったのも納得した。
言わなかった、というよりは言いたくなかったんだろうな・・・・

「渡部は今何やってんの?就活の時、Y社で面接一緒になったのが最後か?!俺、そこの営業やってるんだ。」
「..............へぇ、..............そうか..............」
杉本の話も半分しか入って来なくて、オレの返事が悪かったのか、「まあ、こんな時にアレだし、又今度飲もうぜ。」と言った。

「ああ、そうだな。今度、拓海から連絡させる。またな。」
「じゃあ、な。」

互いに少しだけ手で合図をすると、杉本はオレのテーブルから離れて行った。

独り、テーブルに肘をつくと、手で顔を覆った。松原あけみの死を受け止めるのは、正直複雑な気分だ。
高校が一緒で、拓海の彼女で...................

あの日、再会してしまった事が、オレたちに大きな傷を残す事になるだなんて思いもしなかった。
拓海はどんな気持ちで通夜の席に顔を出したんだろう.......。


暫くすると、チアキちゃんが一人の女の子を伴って店に入ってきた。
’彼女’だと言っていたが、ロングヘア―の背の高い娘で、一瞬’松原あけみ’かと思ったほど、外見が似ていてぞっとする。

「お待たせ、ちょっと時間押しちゃって、ごめんね!」とチアキちゃん。

「や、いいよ・・・さっきまで知り合いがいて、話してたし・・・。どうも、こんばんは。」
オレは、隣の彼女に挨拶をする。

「こんばんは。はじめまして、梨沙です。」
その声は、顔のわりに低かった。ちょっとしゃがれたハスキーボイス。なんとなくカッコイイ感じだ。

早速テーブルを囲むと、さっきの通夜の話は頭の片隅に押しやってしまう。
今、オレが考え込んだって仕方のない事だし、どうにもならない。
拓海に聞く事も出来ないんだからな............。


「そういえば私、あなたの名前聞いてなかったのよね。ゴメン、今頃・・・」
照れくさそうにチアキちゃんが言うから、「オレはアツシ。23歳で、チアキちゃんの売り場の二階下の店で働いてるんだ。」と言った。

「ああ、お店は知ってるけど、あの階は女の子が多いじゃない?男子だから目立ってるもんね。それに、結構イケメンって言われてるの・・・知ってた?」
チアキちゃんが笑いながらオレに話すが、女子の噂好きには付いていけないし、基本的に、オレは女子にモテたい人種ではない。
だから、そういう類の話は嬉しくもなんともなかった。

「オレの場合、カッコイイ男からのアプローチは歓迎だけどね。あのビルでは見かけないんだよね~、残念だけど。」
そう言うと、オーダーを取りに来たので、メニューを見ながら適当に注文をした。
スペアリブは外せない。それと、やっぱりビールだな・・・。


「アツシくんって、カレシさんとかいるんですか?」
先ず質問をしてきたのは、梨沙ちゃん。ソコは、やっぱり興味のあるところだろうな・・・。

「残念ながら、今朝、フラレタばっかりで~す。」と、少しおどけて見せれば
「それ、全然悲しそうじゃないな~。さては、あんまり残念って思ってなかったりして~。」
「えー、そんな事ないよ。荷物も外に放り投げられて、オレ、帰る家も失ってしまったんだからぁ。」

本当は、もう少し酔いが回ったところで話すつもりだったのに・・・。

「あら、同棲してたの?すご~い。」
「羨ましいな~、アタシもチアキと暮らしたい!!」
二人に言われて、複雑な気分になる。そんな素敵な暮らしではなかった。

「男の二人暮らしなんて、全く華やかさはないよ?!ゴミ捨てをどっちがするっていう事でモメてるぐらいだもん。」
「でも、少なくとも好きな相手と同じベッドで眠って朝を迎えられる訳でしょ?素敵だよ~。」
「・・・・・そうか、な?」


そんな事を言われて、ミサキとの生活を振り返ってみた。
------ミサキの事は好きだ。
ちょっと背が低いのを気にしていて、でも顔は可愛いし................。
初めて顔を合わせたのが、ここだった。
拓海の家を追い出されて、友人の家を転々としていたオレを可哀そうだと言って、置いてくれたんだ。

-----で、なんとなくカラダの関係を持つようになったんだった。
もう一年も一緒に暮らしていたんだよなー。






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