『君と まわり道』 15


 『さてと、・・・他に気になるところが無ければ、退院してもらって大丈夫です。今後は控える事だね?!』

医者に言われて「はい・・・、有難うございました。」と、お辞儀をする。
そんな拓海の姿を見守るオレは、気が抜けたようで力が入らない。

「本当に、心臓に悪いよ。こんなに元気になるんなら、オレ来なくても良かったんじゃないのか?」
胸に手を置いて椅子に腰掛けた。

「.......驚かせてゴメン。自分じゃ分からなくてさ。・・・ホント・・・。」
ちょっと凹んでいるのか、拓海が素直に謝るなんて・・・。

「まあ、これぐらいで済んで良かったよ。もし、外でこんな事になっていたら、今頃は本当に死んでいたかもしれない。」
そんな事を想像して怖くなった。酔って階段から落ちたり、車にはねられたりしたら取り返しがつかないもんな.....。


「あ、・・・お前、店は?
ヤバイだろ、こんな時間になっちゃって。」
携帯の時計を確認すると、拓海が焦ってオレの顔を見た。

「一応、山野辺さんには連絡しておいた。昼から出勤しますって・・・。」

「そうか、・・・悪かったな。もう、一人で帰れるし、大丈夫だから。」
拓海はそういうが、どうしてこんな事になったのかが分からないままじゃ安心は出来なかった。
オレは荷物を持つと、「アパートに送って行くよ。」と言って歩き出す。

「・・・・・・・・・」

拓海は言葉には出さなかったが、それを拒みもしなかった。

会計を済ませて外に出ると、停車していたタクシーに乗り込む。
行き先を告げると、シートに身体を預けてぼんやりと外を眺めた。

行き交う人の波を遠くから眺めていると、不思議な気持ちになる。

毎日当たり前のように過ごせていることが、実はすごく稀な事で、人生の内のほとんどは、凹んだり傷ついたりしながら生きている。
だからこそ、たまに起こる幸せな瞬間を大事に思えるんだろう。
まだ23年しか生きていないオレが言うのもおかしいが、今振り返るとそう思った。


- - - 
拓海の部屋に入るが、ミサキから聞いていた惨状はキレイに片付けられていて、夜のうちにミサキと土田くんがしてくれたのかと思うと頭が下がる。ミサキは、そういう気づかいが出来る男だった。
本当に優しくて、言わなくてもやってくれる。
・・・・・そんないいヤツをオレは・・・・・

また一つ、深く反省するが、今更遅い・・・・・。ミサキにとっては、オレはもうとっくに終わった相手だ。
あの、土田くんとかいう男がミサキの新しい彼になるんだろうな・・・・・。


「拓海、シャワー浴びてくれば?その間に服とか洗濯しておくよ。」

「..........ん、後でいいよ。アツシが帰ったらで。」
そう言われ、ちょっとムカついたオレは
「風呂場でひっくり返ったら誰が助けるんだよ。真っ裸、人に晒してもいいのか?」

「.......や、それは.......。」

「別に覗いたりしないって、さっさと入って来いよ。」
尚もしつこくオレが言って、拓海は渋々風呂場へと入って行った。

すりガラス越しに、拓海がシャワーを浴びる姿を見ながら、オレは洗濯ものを洗濯機に放り込む。
洗剤を入れて、スイッチを押すと脱衣所を出た。

キッチンのテーブルにつくと、その上にあったおつまみの袋を取り出して口に入れたが、そういえば朝ご飯を食べていない事を思い出す。

立ち上がって冷蔵庫の中を物色。
ハムやウインナー、ベーコンや玉子があったから、スクランブルエッグにしてベーコンを炒めた。
それをテーブルの上に置いてあった食パンに挟むと、特大のサンドウィッチが出来て、皿に乗せると拓海が出てくるのを待つ。


しばらく待つがシャワーの音は止まないし、ちょっと変だと思ったオレは風呂場のドア越しに声を掛ける。
「拓海・・・」
「・・・・・・・」

返事が無いのでそっとドアを開けてみると、浴槽の淵を掴んでしゃがみ込む拓海の姿があった。

「お、おい!大丈夫か?」

「・・・・ん、ちょっとクラッときて・・・」

オレはシャワーを止めると、バスタオルを持ち拓海の身体を包み込む。
それから抱えるように風呂から出ると、ベッドに横たわらせた。

濡れてしまわない様に、タオルケットを出すとシーツの代わりに敷き、頭にはバスタオルを巻き付ける。

裸の拓海を見て、少しだけオレの中に緊張が走る。忘れなければならないあの感覚が、心の奥に閉じ込めたものが沸々と湧き出るようで。

こんな時なのに、目の前の拓海の裸に欲情してしまうオレって・・・・・・・・・

マジでおかしいだろッ!!





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