『君と まわり道』 16


 出来るだけ拓海の身体を見ないように視線を逸らすと、「あ、水ッ......水持ってくるから。」とキッチンへ急ぐ。

自分でも本当に情けない。
病院から戻って、オレは拓海に飲み物を出すことすらしていなかった。
脱水症状を起こしても不思議じゃないのに.....。

こういう所がダメなんだ。機転が利かない。思いやりが足りないんだな。だからミサキにも愛想をつかされて追い出された。

「ポカリとか、買ってくれば良かった・・・。ごめんな、気が利かなくて。」
そう言うと、手にしたミネラルウオーターのボトルを渡した。

「......なんだよ、そんな事言うなんて......淳らしくないな。
別に水道の水でもいいんだからさ。ありがと。」

拓海はボトルを受け取ると、上体を起こしてキャップを捻り口を付ける。
ごくごくと喉を鳴らして飲むと喉仏が上下に揺れて、そこに目が行くと変な気分になった。

喉仏から鎖骨のラインが綺麗で、うっすらと隆起した胸筋は白く、そこに何かで引っ掻いたのか赤いみみず腫れ。
模様の様な赤い線が余計に肌の白さを際立たせる。


「そこの箪笥からTシャツとパンツ出してくれよ。」

「え?.......ああ、そうだな、風邪ひいちゃうよな。」

慌てて箪笥を開けると、中からシャツとパンツを出して拓海に投げた。

「サンキュ。」
受け取ると、ボトルのキャップを閉めて枕もとに置き、シャツを広げて袖を通す。
それから腰に巻いたバスタオルを外すと下着に足を入れた。

一連の動作をじっと見つめるオレは、「なに?」と、拓海に聞かれるまで放心状態だったみたいで.....。

「あ、.........いや、何でもない......。」と、焦るオレ。

「テーブルにサンドウィッチ作ったの置いてあるから、少し休んだら後で食べろよ。オレ、店に行ってくるし、終わったら来るからさ。」
「.........うん、ありがと。」

「じゃあな、ゆっくり寝てろ。」

「ああ、悪いな.....。」

「いいって、帰りになんか美味いモノ買ってくる。」

オレが拓海に言うと、口元をニコッと上げた。
その顔色は、少し血の気が戻ったみたいで安心する。


部屋を後にして、階段を駆け降りるとバス停を目指す。
いつもは自転車なのに、昨日は駅の駐輪場に置いたまま山野辺さんの家に行ったから。

時間帯がずれているからか、バスの中は案外空いていた。
数人の乗客を乗せたバスの、後方の席に腰を降ろすと、大きな窓ガラス越しに外の景色を眺める。

二日前の朝から始まって、今朝に至るまで色んな事があり過ぎて、頭の中を整理する間もない。
今夜拓海の部屋に戻ったら、事情を聴いてみようか。
酔いつぶれる程飲んで、忘れたい事でもあったのか......。それとも、アイツもオレ同様昔の事を思いだしてしまったのか.......。

ビルの谷間に身を置くと、社員の通用口から中へ入り、タイムカードを押してロッカールームへ向かう。
警備員の他は、遅番でやって来た従業員がちらほらと冷たい廊下を歩いているだけ。
売り場の華やかさとはかけ離れた、地味で薄暗い廊下を進むと男性用のロッカー室に入る。

ロッカーの中には、一通りオレの服が仕舞ってあって、しばらくはこの中がオレの箪笥替わり。
住む所を見つけるまでは、荷物を詰め込んでいることがバレないようにしなければ。これじゃあ、本当にホームレスの人と一緒だ。

着替えを済ませると、そのままオレは店へと向かった。




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