『君と まわり道』 26


 『おひとり様ですか?』
ドアから出ようとしたオレに声がかかった。店員が、オレのすぐ後ろに付いているから立ち止まると、帰ろうにも帰れなくなって「はい。」と力なく答える。

 『こちらにどうぞ。』
案内されたのは、拓海たちが座るテーブルの後ろ。

「あ、・・・・」

向かい合う恰好で座っている拓海がオレに気付いた。
「・・・おう、」なんてわざとらしく目を開いて挨拶をすると、「早いな、どうした?」と聞かれる。

 拓海がオレに話掛けるので、向かいに座った女の人は振り返ってオレを見上げた。
その時しっかり目が合って、オレもなんとなくお辞儀だけしておくが、肩ぐらいの黒髪で前髪とサイドの髪をバレッタでキッチリ留めた真面目そうな女性だった。柔らかそうな襟元にフリルのついたサーモンピンクのブラウス。それから肩にかけた白のカーディガンがとても清楚なイメージで。
「中島の所に泊まって・・・」
それだけ言うと腰を降ろすが、女性を挟んで向かい合って座ってしまい、今更席を変えるのも変だし、落ち着かないままメニューに視線を落とす。
拓海は、「そうか。」と納得すると、また食事を口に運んだ。

 オレがオーダーをして、しばらくすると拓海たちが席を立った。
「じゃあ、またな。」と言ってオレに笑みを見せると去ろうとしたが、「あッ。」と声を出すオレに向き直った。
キョトンとする拓海に、「そういえば、立て替えてもらったの。・・・杉本の。」と、香典とは言わずに告げると、「ああ、アレな。」という。

「今渡した方がいいよな。」とオレが財布に手をやれば、「・・・今夜、家に持ってきてくれ。」と拓海は言った。
「・・・家?」
「そう、10時ごろ。」
「10時?」
「そう、・・・・・じゃあな。」
拓海は女性を従えるとレジの方に向かう。

 オレは、ちょっと驚きの表情になっていたと思う。その表情のままモーニングを運んでくれたウェイトレスに会釈をすると、しばらく思考が止まった。



- - - 
いつもと違う時間帯で動いたせいか、一日中眠気を堪えるのに必死だったオレは、山野辺さんに厳しい視線を向けられてその日を過ごした。それにここ何日かは寝不足気味。流石のオレも疲れが溜まったんだと思う。これで拓海の家に10時に行くとか・・・。
今夜は又、ネットカフェで過ごすんだろうか。なんて考えると、もう一度ミサキに泣きつこうかと考えてしまうオレ。

閉店時間まで居たオレは、その後レンタルビデオ店に入って時間をつぶした。特に見たいビデオもないし、そもそも観れる場所が今のオレには無かった。ミサキの顔がオレの頭をよぎる中、自転車に跨ると拓海のアパートを目指す。


 馴染みのあるドアをノックすれば、すぐに拓海がドアを開けてくれる。

「これ、松原の香典。・・・杉本に渡してくれてありがとう。」
玄関先で、拓海の顔を見るとそう言って封筒に入れたお金を渡す。拓海はそれを受け取って中身をチラリと確認すると、「入れよ。」と言った。
内心「え?!」と思ったが、言われるまま部屋にあがる。
 封筒からお金を出すと、自分の財布に仕舞ったが、テーブルの脇にあった薄いビニールの袋を見せて「香典返し、だってさ。」とオレに言った。
「・・・・・ああ、・・・・・ありがと。」
一応受け取ってはみたが、内心はどうしようかと困る。

「ふふ、・・・茶葉なんかもらっても、アツシ自分で入れる事ないもんな。」
拓海はオレに寄越しておいて嬉しそうに笑った。こういう所が、コイツの憎たらしいトコ。オレの事をよく分かっていて、困ったオレがどうするのか見届けたいんだ。

「分かってんなら寄越すなよ。お前にやる。」
そう言うと袋ごと渡したが、「茶葉は先輩って人にあげたらいいじゃないか。」と言われた。
「・・・・・・うん、そうだな。そうする・・・・・。」
納得したオレは、またソレをバッグに仕舞う。そのあと、少し沈黙が続くと拓海がオレの顔を見て「今夜は泊れば?」と言った。

「・・・え、いいの?」
驚くオレに、拓海は顔色を変える事もなく「いいよ。看病してくれたし、どうせ行くとこ無くて転々としているんだろ。ミサキの所には、言っとくが戻れないからな!・・・・別の男が居る。」と言った。

「.......ぁ...............例の、」
土田というミサキの同僚の顔が浮かぶと、完全にオレの中からミサキの姿は消えた。自分で蒔いた種とはいえ、これで二度とオレとミサキが寝る事は無くなる。もうオレの側にはいてくれないという事実が悲しくも圧し掛かる。

「......寂しいか?」
拓海にそう聞かれ「.............そりゃあな、一年ぐらい一緒に暮らしていたんだし。」と、答えた途端、ボスツとオレの腹に拓海の拳が飛んできた。
 グフオツ・・・

息が止まるかと思ったオレは、身体を畳むように腹を押さえると拓海の顔を睨みつけた。
でも、いきなり何をするんだよ、と言いたいが言葉にならなくてじっと見るばかり。

「俺の事は考えた事ないだろ!!」
拓海が怒鳴る。

「.................た、..........くみ?!」
何を怒っているのか分からないオレは、目を瞬かせて言葉に詰まった。

「一回出て行けって言われただけで、アツシは簡単に出て行くんだ。お前は本当に執着しないヤツだよな!!」
急に怒られてオレも困ってしまうが、なおも拓海は言葉を発した。
「一年半前もそうだったけど、何の未練も無いように、簡単にどこかへ行ってしまう。どうして?」

「..............え、どうしてって..........」

「一昨日は、俺、アツシに伝えたよな。お前の事が好きだって気持ち、それが友情だけじゃないって事も!!」

「............う、うん..........。」

「昨日は中島の所に逃げたんだろ?!ここへ戻るの怖くなって.........」

「え?いや、違うって................怖いとかじゃなくて。」

そこまで言ったオレだったが、拓海の顔が怒りのせいで赤く興奮しているのを見ると、二度と腹は殴らせまいと防御の姿勢をとって身構えた。






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