『君と まわり道』 34


 天気が良かった事と、昨夜のように寝返りで起こしてしまわないようにする為、押し入れで眠るオレの布団はベランダで天日干しする事にした。一緒に寝るのがイヤとか、そういう理由ではない。あくまでも、昔のように過ごしたいからで、もし寝たい時は隣に入り込むつもり。

「なあ、アツシの荷物ってロッカーに置いたまま?」
「ああ、ミサキの所にあったのは服ぐらいだし、前にここに住んでいた時だって服と靴とバッグしかなかっただろ?」
「・・・だな、アツシの生活感の無さってそっから来てるのかも。フラフラとヤドカリみたいな生活だもんな。」
「ヤドカリ・・・って。ヒデぇな・・・・・」

拓海に言われて反論できない自分が情けないが、正直、実家を追い出されてからのオレは言葉通りのヤドカリ。
残りの学費を稼ぐのに必死だったし、卒業してからは、アパレル関係の仕事で働いても、食っていくのと洋服代で給料は消えた。

「拓海は高校卒業してすぐこのアパート借りたじゃん。まあ、学生の内は親も金を出してくれてたって聞いたけど、今は?」
今更な質問で、拓海も呆気にとられるが、「俺は社会人になってから自分の給料で生活してるよ。一応ボーナスもあるしな。」と言われる。
「ボーナス・・・・」
その言葉がオレの心にズーンと響く。アルバイトの身のオレにボーナスは無い。’寸志’ってやつを社長に貰っただけ。中身は多分高級焼き肉店一回分の食事代ぐらいだ。

「アツシも今の仕事続けるんなら、バイトじゃなくて正社員にしてもらわねぇとな。お前、ヤドカリから脱却出来ねぇぞ。」
そう言われ、「分かってるよ。オレ、今売り上げで上位にいるからさ、その内山野辺さんから頼んでもらうつもり。」と言った。
「売上上位にいるって、凄いじゃん。お前営業向きだもんな。杉本と同じ会社受けたんだろ?お前なら受かってただろ。」
「・・・まあ、な。」
言葉を濁して、オレは手元のシーツや枕カバーを畳むと拓海に渡す。
それを受け取ってクローゼットに仕舞うと、拓海がキッチンへと行った。この話は、ちょっと気まずい事になると察知したようだ。

全ては自分が原因で、親に自分の性を否定されたからこうなってしまった。とは言え、親父は母親程ヒステリックにはなっていなかった。でも、擁護もしなかった。どうしたらいいのか分からなかったんだろうな。

ふぅ、っと息を吐くと、立ち上がって拓海のいるキッチンに行く。
「拓海、・・・・」
と、後ろからお腹に手を回すとギュっと抱きしめる。程よい筋肉の動きがオレの手の平に伝わり、一瞬ビクッと肩をあげた拓海はオレの手をそのままにしていてくれた。それがちょっとだけ嬉しい。
拓海はオレの事を’気持ち悪い’なんて言わない。

「キスしてもいい?・・・ダメ?」

拓海の背中に顔を埋めると、その背中に振動を伝えるように言った。
「ははっ、くすぐったい・・・・オッケー、いいよ。だからソレ、やめて。」
そう言うと振り向いてオレの目を見る。少し目の周りが赤く感じて、恥ずかしいのを堪えているんだろうかと思った。

首を傾げると、チュッと唇にキスをする。ほんの一瞬。すぐさまオレは、ニッコリ微笑んでその場を離れる。
「そんだけかよっ!!」拓海が笑いながら言うと、オレも、はははっ、と笑い飛ばす。

今はこの距離が心地いい。

日の光を浴びてふかふかになる布団を眺めながら、オレはまた遠い景色に目をやった。




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