『君と まわり道』 39


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 自転車に跨って住宅街を抜けると、通い慣れた道を走る。
昨日は、一日中拓海とまったり過ごしたオレだった。病み上がりだし、おとなしく晩御飯を食べたら又寝て、日曜日の今朝はオレは仕事だが拓海は休日。
普段なら遅刻ギリギリになるところを拓海に早く起こされて、朝飯まで食わされて.........。
出がけに、「合鍵、お前の分持ってろよ。」と渡された。

 どうしよう、凄く嬉しいんだけど.........。

郵便受けに入れておくとかじゃなくて、ちゃんとオレ用に持たせてくれるって事で、一緒に住むんだって実感が伝わってくる。
そう思うと、見慣れたビルの景色や街路樹がちょっと優しく見えるのは不思議なもんだ。


「おはようございます!」
「おはよ。ずい分顔色良くなったわね。」
山野辺さんが、店に入ったオレの顔を見て言った。
その表情は安堵の色をしていて、本当に心配をかけたんだと思う。気丈な性格だけど、本当は暖かい人なんだ。オレをゲスだと思っているかもしれないけど、優しく接してくれる。

「もう、すっかり治りました。ご迷惑お掛けしてすみませんでした。」
腰を折ってお礼を言うと、ニコニコと笑いながら手招きをした。

「.....なんです?」と近づいて行けば、「淳くんのお友達、カッコイイねぇ~。スーツも似合ってるし、同じ年に思えない程しっかりしているじゃない!」と、満面の笑みを浮べている。
「はぁ、どうも.......、いいヤツなんスけどね。しっかり者だし.............。」
「女子社員が放っておかないタイプだわね!すっごくモテそう。」
「......ま、そうっすね。オレの方がモテるとは思いますけどね。」
「え?!・・・やっだ~、淳くんソコで競うなんて・・・・・。女子にモテても嬉しくないんでしょ?」
そう言われ、「まあ、その通りですけど・・・。」と答える。

別に拓海と競うつもりは無いけど、なんだか胸がざわざわしてしまう。
オレは、家でも職場でもこのままだし、特に変化も無くて.........
でも、拓海は........

職場での拓海がどんななのか、オレは知らない。
先日モーニングを一緒に食べていた彼女。すごく真面目そうな可愛い娘だった。
高校の時、松原の前での拓海はどうだったろう。人前でいちゃつく事はしなかったし、松原はオレの事が好きだったんだと拓海が言ったけど、あの時は分からなかったから。お似合いの二人だと思っていたんだ.....。

「遅番のチカちゃんが来たら大変よ~。きっと紹介しろって言われるわね。あの後、帰る迄ずっと’あの人カッコよかったですねー’って言ってたもの。」
「え?マジすか?............ヤバイな..............。」
オレの胸が余計にざわつき始める。今まで気にも留めていなかったが、女の子にモテる拓海とオレが付き合うっていうのは心苦しく思う。本当にオレなんかでいいんだろうか.........。

「ねぇ、もしかして・・・・・」
山野辺さんが、小物を並べるオレに向かうと言葉を掛けるが、「ま、いいや。何でもないわ。」と言って、自分の前にあるディスプレイ用の花飾りを直しだした。

日曜日の売り場は、色々な年齢層のお客さんが来る。
大抵は10代後半から30代が多いが、オレはどちらかというと30代の人を接客するのが好き。同年代とか年下はちょっと疲れる。
それでも、好きな雑貨の話とか、雑誌に出ていた商品を説明したりするのは楽しかった。
オレはゲイだけど、女の子には綺麗になってもらいたいと思っている。恋愛感情は抜きでも、一緒に遊ぶならおしゃれに興味のある娘がいいし。

「おはようございま~す。」
明るい声で、挨拶をしながらチカちゃんが出勤してきた。

「おはようございます、昨日はすいません。」
オレは一応休んだことを詫びておく。が、「いいのいいの、全然気にしないで。」と言った。
その顔が何か言いたげで、さっきの山野辺さんが言っていた言葉を思い出した。紹介しろって言われるかな.........。

チカちゃんは、山野辺さんのお客さんが買った商品を袋に入れながらも口元が緩んでいた。
いつもの愛想笑いとは違う。

「「ありがとうございました~。」」
三人で挨拶をして、店の中に人が居なくなると、早速チカちゃんがオレの側に近寄って来る。

あっ、と思ったオレ。さりげなく服を畳み直しながら離れようとするが、チカちゃんに腕を取られる。
「・・・え?」と驚くオレに、「ねえ、迎えに来てくれたお友達。彼女いるの?」と、直球を投げられて。
「・・・・」
無言で畳みながら、内心はドキドキ。
彼女は居たが別れた。で、今はオレと付き合う事になった。・・・・・な~んて言えないよな・・・・・。

「いるんじゃないか~、確かそんな事言ってた・・・。」
「あぁ、やっぱりか。.........そりゃあね、あのイケメンぶりじゃ女の子に困る事ないわよね。」
「まぁ、ね。................」
少しだけ心が痛かったが、チカちゃんにカミングアウトするのも面倒だし、このままそっとしておこう。

「もし、彼がフリーになったら紹介してね?!いい?」
チカちゃんは逞しい。少しの可能性を掴もうと必死だった。
「うん、わかった。」
オレは、痛んだ心にそっと蓋をすると、ニコリと笑みを浮べる。




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