『君と まわり道』 47


 「あ、っつ~い!!」
声に出して叫ぶと、身体を包む掛布団を思い切り蹴飛ばした。

- はぁぁ、

ベッドの上で上体を起こすと、首から胸にかけて吹き出た汗を拭う。Tシャツを捲り上げ、裾で顔の汗を拭うとベッドから降りた。
隣を見ると、拓海はとうに出勤した様でシーツのシワだけが残されている。
壁に掛かった時計に目をやると8時を過ぎていて、「やっべッ、遅刻する。」と言いながら焦って洗面所へ向かった。



- - - 
今日は平日。拓海は会社へと出勤して行き、オレもいつもの様に9時半には店へ入れるように仕度をする。
昨日は自転車を置いたままだったから、今朝はバスで行かなきゃならなかった。もちろん朝食を食べる時間なんか無い。

キッチンの流しには、拓海が食べた朝食の皿が置かれていて、アイツはしっかり朝飯を食ったんだと分かる。
出勤時間がずれているから、オレたちは昔もこんなすれ違いをしていた。それが普通。そこだけは変わらいようだった。



 バスを降りると、照り付ける太陽に目を細めながら、オレは駅ビルに入って行く。

「おはようッ、」と背後から声が掛かり振り返ってみると、そこに居たのは靴屋のチアキちゃん。
白いTシャツと、黒のメッシュTシャツの組み合わせに大きめのネックレスをしていて、大きな輪っかのピアスが目を引いた。

「おはよう、早番?!」
「そう、今週は早番なの。アツシくんも?」
「ああ、オレも今週はそう。帰りは早いからいいんだけどさ、朝がキツクてな~。」
ぼやきながら空調の効き始めた廊下を歩いて行くと、「あら、朝は苦手なんだ?!起こしてくれる人はいないの?」と尋ねられる。

オレの頭には、すぐに拓海の顔が浮かんだが、今朝のように放って置かれる事の方が多いと思う。
昔も、だけどこれからもそうなんだろう。たまに早く起こされても、着ていく服でもたついていると叱られるからイヤなんだよな。

「残念ながら、優しく起こしてくれるヤツはいないんだよ。.........あ、でも、オレ彼氏が出来たかも。」

「え?ホント.............?フラれたばかりじゃなかったっけ?!」
オレの顔をまじまじと見つめながら聞いてくる。

「まあ、フラれた事は置いといて、結構マジな付き合いになりそうでさ。」
「へえ、良かったじゃない。そんな出会いがあったなんて、奇跡だね。」
チアキちゃんが大げさに喜んでくれるから、耳が熱くなるような気がした。今まで感じた事のない照れが、オレの身体を包むと妙に落ち着かない。

「奇跡だなんて・・・・・まぁ、そうなのかも。」

「頑張ってね!じゃ、」
「うん、・・・じゃあ。」

互いのロッカールームに入って行くと、オレは一人でニヤけ顔になるのを堪えた。
早番の時間帯は、ロッカールームも賑わっている。カラダが触れそうな程の狭い場所で、着替えをしたり身なりを整えると、知った顔に挨拶だけして店へと行く。そんなところでニヤついていたら変だろう。

「おはようございま~す。」
店に入ると、レジのある棚の上でノートに目を通す山野辺さんに挨拶をした。

「あ、おはよう。」
オレに微笑むと、「住む所は見つかった?それとも家に来る?」と聞かれ、オレは慌てて「見つかりましたから。」と言う。
それを聞いた山野辺さんは、尚もニッコリ微笑むと「そう、良かった!」と口角をあげた。

心配してくれたんだと思うと申し訳ない。短い間に色々な事が起こり過ぎて、一気に変化があった様な気がするが、考えてみたら昔と状況は変わっていなくて...............。
ただ一つ変わったもの。それはオレと拓海の関係性。

- 金曜日、って・・・・・・

昨晩の拓海の言葉が脳裏をよぎる。
思わず顔がニヤケるのをどうにか誤魔化すが、山野辺さんに見られて眉を下げられてしまう。
「どうした?!なんか不敵な笑みを浮べて・・・・。ヤラシイ事考えてないでよ~、朝っぱらから!」

「あ、違いますって・・・、考えてないッスよ。」
慌てて棚の上のカバーを取ると、それを畳み始める。

- ヤバイ、顔がニヤケてしまう・・・・・
金曜日までこんな風じゃダメだな。

オレは、深呼吸をすると大きく腕を回した。





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