『君と まわり道』 48


  -----はぁ ---------っと、ため息をひとつ。

すぐに視線を感じて、顔を向ければ山野辺さんがオレを見ていた。
「.........すいません。」と首を竦めて謝ると、売り場の前の通路に向かう。
通路から再び店内を見ると、ディスプレイを確認した。初夏の清々しいイメージのディスプレイに満足したのは先週の事。
ここへ来て一気に夏日和になると、もう少し色合いを変えてみようかと思う。

「山野辺さん、お客さん少ないッスね。月曜日だから仕方ないんスかね?!」
そう言いながら、どんな色合いを持ってこようかと思案する。白っていうのはありきたりで、清純なイメージとか暑い時には涼しそうな色ってだけで決めるのも安易だし。

「淳くん、先にお昼行ってきていいわよ。多分今日はこんな一日なんじゃないかしら。昨日は結構にぎわったもんね。」
「.......はい、じゃあ、そうします。..........戻ったら、少しディスプレイ変えてもいいスか?」
「ええ、モチロンよ。丁度私も変えようかなって思ってたところ。」
「じゃあ、行ってきまーす。」

ブラックデニムの尻ポケットに入れたウォレットを確認すると、そのまま社員の休憩室へと向かう。

途中、他の店舗のディスプレイをチェックしつつ、なんとなく自分の中にイメージを作り上げていく。うちの店にしか出せない色。インパクトを与えながら、手に取ってもらえるような............。

休憩室に着くまでそんな事を考えていたが、テーブル席のある前方を見たら、今朝会ったチアキちゃんの姿が見えて、オレはサンドウィッチとコーヒーを注文すると近くのテーブルに行った。

「今日も弁当?」と声を掛けながら、チアキちゃんの顔を見る。

「あ、どうも。.....まあ、お弁当には違いないんだけど......、実はこれ自前のなんだ。」

「え?チアキちゃんが作ったんだ?!どれ、」
と覗こうとしたら、「やだー、恥ずかしいから見ないでよぉ、料理のセンス無いんだからさ。」と隠されて。
「ごめんごめん。彼女は作れなかったんだ?!」と、いつも作ってくれるという梨沙ちゃんの事を聞いてみる。すると、一瞬で表情に寂し気な影をおとした。

「梨沙、今日から一週間も会社の出張でいないのー。一週間だよ?!長くない??」
そう言うと唇を尖らせる。
「ああ、一週間か............、長いね。」
オレは隣に座ると、チアキちゃんの方に身体を向けた。その時少しだけ梨沙ちゃんの顔が頭に浮かぶ。ロングヘア―の背の高い彼女はどんな仕事をしているんだろうかと思った。

「そういえば、この間仕事の話は出なくて聞けなかったけど、梨沙ちゃんて何してる人?」
「梨沙は、企業に勤めるOLさん。とはいっても、地方に支店もあって時々はそっちに行かされるんだよねー。」
「...........そうか、なら寂しいねぇ。じゃあ、一週間は自前の弁当って訳だね?!」
オレがニコリと笑って言えば、「あ~、無理だわー。明日からは此処で注文して食べる事にする。うちの母も作ってはくれないしさ。」と半分ぼやき乍らおかずを口に運んだ。

ははは、と笑ってしまったが、毎朝駅で会ってお弁当を受け取っていたらしいから、一日でも会えないという事はチアキちゃんにとっては重大な事なんだろうと思う。オレにはまだ、そういう事を感じさせる場面もないし、よく分からないんだけど.....。

「そういえば、彼氏・・・・・。どんな人?」
不意に聞かれて、「え?」と固まってしまう。

「どんなって、・・・・・・まあ、普通?!」
「普通って、よく分かんないよ。例えば身長とか、顔は芸能人の誰に似ているとかさぁ、あるでしょ?」
弁当のおかずそっちのけで、オレに近付くと聞いてくるが、今まで誰に似ているか、なんて気にも留めていなかったから答えようがない。頭に拓海の顔を思い浮かべてみる。

「..............、顔は日本的。ストレートの黒髪で、身長はオレより少し高い、ほんの少しな!.............で、スーツが似合う、かな?!」
思い浮かぶ事を口に出して言ってみたが、なんだか恥ずかしくなった。オレの中に、拓海の存在がブア―――――ッて流れ込んできて、身体の芯が火照るっていうか................。

「あれ、アツシくん、顔赤くなってるう~~~ッ。」
チアキちゃんがオレの顔を覗き込むと言うから、俯いて顔を見せないように伏せたが、自分でも自覚している。
オレはちょっと変になっていた。今までは、ミサキと長く付き合っていても、ここまで存在を意識したことは無い。だから他の男と浮気も出来たんだ。本当にヒドイ男だと思うよ。
けど、拓海の事が頭に浮かぶと、なんとも言えない気持ちになる。

「.......あのさ、チアキちゃんって、ノンケの娘と付き合った事ある?」
唐突な質問をしたオレに、「無い。」と一言で片づけられて.....。

「あ、........そうだよな。普通は付き合うまでに至らないもんな。」とオレ。
「え?............まさか、アツシくんの彼ってノンケ????ウソでしょ?!付き合えてるの?!」
周りに聞かれないようにオレの耳元に近寄ると、目をまん丸くして聞いてくる。

「ん、まぁ、そんなトコ。」
お茶を濁す様に返事をしたが、付き合えてるっていうか...............、それはこれからで。

「うわぁ~すごいわー、そんな勇気無いよぉ~。いいなって思った人は居ても、確実にノンケの娘を誘ったり出来ないもん。」
チアキちゃんはそう言うと、また弁当のおかずに箸をつけ始めた。

「あー、そうだよな~。オレもちょっとビックリしてるもん。」

「.............................。」

そこから先は会話も止まってしまい、オレはサンドウィッチを頬張ると、おでこを掻きながら自分自身の事なのに、どこかで引いて見ている気がしてならなかった。実感が湧くまでには、まだ難題をクリア出来ていない。それがどこかで、オレの気持ちに蓋をしているんだと思う。





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