『君と まわり道』 52


 朝だというのに、店に着くなり帰ることを考えてウキウキしてしまうオレ。

6時半に拓海と待ち合わせ。アイツが京都から戻って来るから、一緒に夕飯を食べようという事になった。
何処の店に行くかは分からないが、一緒に並んでおかしくないように、今日のファッションはスモークピンクのオープンカラーシャツに黒の8分丈のスラックスを合わせる。コインローファーを履いてシックにキメれば、拓海と歩いていても違和感はないだろう。


「あら、スラックスなんて穿いて珍しいわねぇ。どうしたの?」
普段の格好と違うオレを見て、山野辺さんが聞く。そういう所はやっぱり目ざといんだよな。---っていうか、オシャレには敏感なんだ。

「どうもしないですけど.........、拓海と晩飯食いに行くんで。一応、サラリーマンに負けないようにって.....。」

「ああ、.........で、拓海くんてこの間迎えに来てくれた?!」
そう言うと、急にニヤケた顔でオレを見た。
「そうですよ、実は一緒に暮らす事になったんで。まあ、昔の部屋の真下なんですけどね。」
「あ、そうなの?...............へぇ、複雑。」

どういう意味で’複雑’というのか分からないが、ミサキには新しい男(土田くん)がいるし、オレは拓海と付き合う事になったから、この形は自然と言えば自然なんだ。ドロドロの愛憎劇ってヤツは映画でしか見た事が無いけれど、今のオレにはちょっと分からない世界。

「今日は時間通りに帰らせてもらいますから、お願いしますね。」
「わかったわ、でも、チカちゃんには今日の事話さない方がいいわよ。絶対くっついて行くから・・・。」

「・・・・そ、そうですね。そうします。」

- 危ない危ない。
この間、拓海には彼女がいるって言ってウソをついたんだっけ?!男二人でご飯に行くとか言ったら、トモダチとか連れて割り込んできそうだもんな・・・。
せっかくのデートが、だいなし・・・・・。



- - - 

山野辺さんの忠告通り、チカちゃんには何も話さないままオレの終了時間となった。

「では、お先です。失礼しま~す。」
「お疲れ様~」「おつかれさ~ん。」

それぞれに挨拶を交わすと、急いで社員通用口を抜ける。早番終わりの人間が、ダルそうに歩く横を颯爽と追い越すと、オレは待ち合わせの場所へと向かった。

ビルの入り口に背中を預けて、ポケットに手を入れると携帯が鳴るのを待つ。
ほんの数分の事が、えらく長い時間の様な気がして、オレは段々時計を見る頻度が増えてきた。






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