『君と まわり道』 54


 運ばれてきたスペアリブに食いつきながら、無言で顔を見合うオレたち。
ビールで脂を流し込むと、拓海がオレの顔を見て言った。
「昨夜さ、鴨川のトコにあるバーに連れて行かれたんだ。」

オレは、昨夜の電話を思い出した。鴨川のナントカって店の近く.........。
結局店の名前は出て来ないが、「へえ、」と聞き流す。

「取引先に4つ上の人がいてさ、その人に連れて行かれたんだけど、京都の女の子ってなんか癒される。あの言葉使いかな?!」
やけに嬉しそうに話すから、「そうどすか?!」ってニッコリして言ってやったが、「アツシが言うとキモイ。やめて。」と言われる。
- ふざけただけだっつーの!

「それで、その女の子が俺の事みて、モデルさんやと思いましたわぁ~、って言うんだよ。まあ、身長はそこそこあるからな、でも、そんなにカッコイイかなぁ~。どう思う?」
- どう思うって...........、

「................、まあ、そこそこイケてるんじゃね?!タッパあるだけでも着こなし違うからさ。」
オレは、心の中では充分カッコイイよって思ってはいた。でも、ここで口に出すのは恥ずかしいし悔しくて。
「着こなしって・・・・、顔は?」
「顔は..............、そこそこじゃね?」
又も心の中とは違う言葉を発するオレ。拓海はオレになんて言って欲しいんだよ。
「あ、そう。」と拓海はつまらなさそうに呟く。

ビールを口にしながら、次に運ばれてきた皿に目をやると、それを一口頬張るが、ゆっくりと噛みしめるとふと視線を感じたので前を見た。すると、拓海がビールのコップに口を付けたままじっとオレを見ている。

「・・・何?」と聞くが、ううん、と首を横に振ってコップをテーブルに置いた。視線は皿に向けられて、それを口に入れると咀嚼を始める。

- なんか調子が狂う。

あんなに会うのを楽しみにしていたのに...............、どうしたんだ、オレ。
たわいない会話が出来ていた筈なのに、今日は様子が違ってしまった。それに、周りの視線が気になって仕方がなかった。

「明日も仕事だろ?早めに帰って身体休めた方がいいぞ。」というと、オレは目の前の皿を平らげる。
「.........そうだな、確かに。コレ食ったら帰ろっか。」
拓海が上目ずかいにオレを見ながら言ったので、「ああ。」と一言だけ返事をした。


* * 
会計を済ませると、マシューのドアを開けて外へ出た。その時、「渡部と山城じゃん。」という声が耳に入る。

「あ」と振り返ったオレたちに、満面の笑みを投げているのは、同級生の杉本だった。
前にも、ここで出会っていたオレに、「また会ったな。この店仕事場から近いの?」と聞かれる。
「ああ、そこの駅ビルに入っている店がオレの職場なんだ。」と告げた。
「そうなんだ?!.......山城、もう帰るのか?」と、今度は拓海に聞いてくる。
「うん、今食い終わったトコ。出張いってたから帰りにアツシと待ち合わせしたんだ。お前は?」
「俺はこれからデート。.........だから、又な。今度ゆっくり飲もうぜ、渡部も!」と言って軽く手を振るとマシューのドアを開けて消えて行った。

「杉本の彼女、顔見ていくか?」と聞かれ、「いや、興味ねぇし。」と言うオレ。どんな女と付き合おうが、オレにはどうでもいいことだった。ここが、普通の男とは違う所なんだろうか。
「拓海、興味あるの?可愛い娘だったら’チクショー’とか思うのか?」
例えば、ゲイバーで隣に来た好みの男が、他の男の連れだったと分かった時の気持ち。やっぱり、’チクショー’と思うんだ。それと一緒なのかと疑問に思って聞いた。すると、拓海は笑って「ははは、それは........、前の俺なら思ったかもな。」と言う。

「今は?」
並んで歩きながら、交差点の信号が赤に変わったので、足を止めて聞いてみた。

「アツシがいるから、それでいいよ。羨ましくなんかねぇし。」
顔だけは信号機に向けて。でも、横目でオレを見ると言った。

「ばッ、・・・」
思わず大きな声が出そうになって口を押える。
バカじゃないのか。と言いそうになったが、心臓がキュンって掴まれて、後からバクバクとしてくると、オレは信号機を見つめて呼吸を整えた。

人の波を潜り抜けて駅前に戻ると、「帰りは何で帰る?バスの時間はまだあるけどさ。」といった。
「二人だし、タクシーで帰るか。ワリカンにすればそんなに高くない。」
「ああ、そうだな。」
拓海と二人でタクシー乗り場まで歩く。バスが停まるロータリーを横切って、停車中のタクシーに乗り込んだ。

行き先を告げ、奥に座った拓海の後を追うように、オレも乗り込むとシートに背中を預ける。
ビールの酔いはさほど無く、まだ全然シラフだったが、閉ざされた空間に拓海と居る事で、オレは少しだけ酔った気分になっていた。
カバンを奥にやると、オレの肘に当たるくらい身体を寄せてくる。密着した右腕が、なんだかソワソワして落ち着かない。

家までの距離はあっという間で、アパートに着いたオレたちはタクシーを降りると階段を駆け上がった。

何故か分からないが、一刻も早く二人きりになりたいという欲求がオレたちを急がせる。
拓海がカバンからカギを出すのがまどろっこしくて、オレはポケットに入れていたキーホルダーを抜くとすぐに鍵穴に差し込んだ。
バタン、とドアが閉まる音と共に、オレは拓海に向き合うと身体を密着させる。そうして、近づいた拓海の目を見るとそっと唇を重ねた。




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