『君と まわり道』 58


 いつも通りの店内は、これといって代わり映えはしなかった。敢えて言うならば、オレのディスプレイが思いのほか好評で、アメ車柄のオープンシャツはすでに売り切れて在庫が無いという事。広報の人から褒められたと、山野辺さんが喜んでいた。
そして、秋冬物の発注の時にはオレを本社へ連れて行ってくれると言う。

「一年、頑張ってるもんね?!そろそろ正社員になれるんじゃない?」と、山野辺さんが微笑むと言ってくれた。
「そうなると有難いッス。友達にも、アルバイトじゃ先が見えないな~とか言われてるんで。ちゃんと、この仕事で飯が食えるようになりたいですよ..........。」

「そうよね、大学もいいとこ出てるんだし、会社の方も新卒の採用枠があったら絶対淳くんを本社採用した筈。今度本社に行って、部長にそれとなく聞いてみようか?」

「え?!ホントですか?................お願いします。」
オレは飛び上がりたい気持ちを押さえながら、山野辺さんに深々と頭を下げる。

「ヤダヤだ、そんなに真面目な淳くんって............、調子狂っちゃうわよぉ。」
そう言いながらも、山野辺さんも嬉しそうだった。個人的な性癖の事やなんかはさておき、仕事の面ではちゃんと真面目に働いてきたつもり。売り上げの事も考えているし、山野辺さんに指示は受けるが、オレなりに店作りにも参加している。
まだ駆け出しだけど、この業界で仕事がしたかった。拓海のように、商社の営業で頑張っている奴らと肩を並べていたいと思う。

「ところで、今週の土曜日は私、タケルの学校の用事で抜けるから、午後だけどよろしくお願いね。チカちゃんは前から決まっていた旅行とかで休みを取っているし、淳くん一人になるけど.....、大丈夫よね?一応テキスタイルの人が午後から応援に来るらしいけど、販売はした事ないから.....。」

「ああ、大丈夫ですよ。オレひとりでも。5時くらいには戻って来られるんでしょ?」
「ええ、そのつもり。3時間くらいだからね、淳くんなら大丈夫だと思ってるけど。」
そう言われ、「任せて下さい。」といったオレは、余裕で商品の品出しをする。

* * * 
早番あがりでロッカールームへ行くと、携帯のバイブレーションでメールが来たことが分かる。
多分、拓海だ.............。

オレはポケットに仕舞った携帯を手に取ると眺めた。やはり拓海からのメッセージで、帰りに買い物をして来いという。
何を買えばいいのか分からないオレが返信を打つ。すると、カレーを作るからその材料を買えと。
仕方がないから、’了解’とだけ打つ。

自転車に跨り近所のスーパーまで足を運んだオレだったが、なんというか、偶然にもそこでミサキと土田くんに遭遇してしまった。
オレの前方で、カートに食品を入れているミサキは、隣の土田くんに何か話しかけながら楽しそうに笑っていた。

思い出せば、以前のオレとミサキもここへは来た事がある。もっぱら料理はミサキが担当で、オレは月に一度くらいしか作る事も無かった。後は店が終わったら遊びに行っていたから...............。
また一つ反省するオレだったが、じっと見ていたせいか、ミサキが振り返るとオレの顔を見た。

「あ、」
一瞬、困惑した顔になる。が、隣の土田くんが気づいてオレに会釈をしたので、ミサキも黙っている訳に行かなくなったんだろう。

「いま、帰り?..........アツシが買い物するなんて珍しいね。」
ミサキがオレに顔を向けて言った。距離は微妙に離れてはいるが、あまり近寄るのも変だし、ちょっと居心地が悪い。

「カレーの材料を買って帰れって言われて.........。」と言ったが、「へえ、ちゃんと自炊するんだな。」と目を丸くした。

「........................」
なんとなく二人の会話が途切れたので、「じゃあ、」といってオレが別の材料を覗きに行こうとする。こういう場面は苦手。追い出されたオレとしてはやっぱりバツが悪い。それに、あっちはカップルで仲睦まじく買い物中。お邪魔するのも気が引けるしな......。

オレは何気なくよその方を向くと、ミサキたちから離れて行った。

自分だけは感じる、その場に漂う空気が重いような冷えているような.................。
それでも、後ろ髪を引かれる想いとは違うという事だけは分かった。オレは、もうミサキには執着していないし、そもそもが執着しなかったんだろう。今までのオレはそんなだったから..。


拓海に言われたカレーの材料を購入して袋に詰めると、オレはアパートを目指して自転車を漕いだ。




ご覧いただき有難うございました

にほんブログ村

人気ブログランキング
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント