『君と まわり道』 59


 ミサキ達より先にアパートに着いたオレは、急いで階段を駆け上がると拓海の部屋のドアを開けた。
拓海はまだ戻っていなくて、キッチンのテーブルの上に材料を出すと、ひとまず冷蔵庫に仕舞い込む。 多分作るのは拓海。
オレは一応買い物担当、といったところだろうか。

- そう言えば、飯、炊いてんのか?

朝は全然気にも留めていなかったし、炊飯器のスイッチを覗いて見たらちゃんと保温になっていた。オレの寝ている間に、拓海がちゃんとタイマーをセットしてくれたんだと分かって、「さすがだね。」と独り言を呟いた。

着ていた服を脱ぐと、ラフなTシャツと短パンに着替えたオレは、取り敢えずジャガイモの皮くらいは剥いておこうと、冷蔵庫から取り出して流し台に置く。
ピーラーを片手に、ジャガイモの皮を剥いていくが、その内通路に足音が聞こえて玄関で止むとドアが開いた。

「あ、お帰り~。」オレが拓海に言うと、玄関で立ち尽くしたままこちらを向く。

「た、........、え?アツシが作んの?」
拓海が眉間にシワを寄せて言う。

「まさか、お前が帰って来るまでにジャガイモくらいは剥いておこうと思っただけ。」
そう言うと、ピーラーとジャガイモを掲げた。
「皮ぐらいは剥けるんだけど、拓海が着替えたら作ってくれよ。」

「ああ、モチロン。ちょっと待ってろ。」

部屋に行くと、ハンガーにスーツを掛ける。それから黒のTシャツとスウェットパンツに着替えてオレの隣に来た。
二人並んでキッチンに立つって、なんだかくすぐったいな.........。
初めてここへ転がり込んだ時、多分同じようにカレーかシチューを作った気がする。その時も一緒に材料を切った様な........。
でも、その時の気持ちと今とでは、全く別の感情が入り込んでいる事は事実だ。こんなにも照れながらジャガイモの皮を剥くなんて、あの頃のオレには想像すら出来なかった。

「なかなか上手いじゃん。ミサキとも一緒に作った?」

「...........は?なんでミサキ?」

「...........いや、なんとなく口から出ちゃった。この間までこの上に住んでたから..............、ごめん。」

そう言われて、さっきスーパーで出会った時の事を思い出す。
言葉には言い表せない感情。すごく複雑な.................、互いの事を知っているからこそ妙に気まずい。

「気になるんだ?!やっぱり.....。」
オレは、今更な事だけど拓海に聞いてみた。大学の友人として紹介されたミサキが、オレを置いてくれる事になった時、拓海は反対する事も無かった。その頃はオレがゲイだという事も、ミサキがゲイだという事も知っていて、いずれはオレたちがそういう関係になるって事も分かっていた筈。オレを追い出した時、オレの事が好きかもしれないと思ったんならどうして言ってくれなかったんだろう。

もし、拓海の口から聞いていたら、オレはこんなに遠回りはしなかったと思う。

「..............、気にならないって言えば嘘になるな。」
今度は人参の皮を剥きながら言った。
オレの目を見ずにそう言われると、なんだか辛いな.........。

「実は、さっきスーパーでミサキと土田くんに出くわした。」

「え?そうか.........。気まずかった?前にコンビニの所でも会ったしな。」

「うん、なんとな~く、変な感じはあるよな。..........でもさ、オレは今現在お前の事が好きって思ってるし、拓海以上に好きなヤツは出て来ないと思ってる。」
オレは自分の気持ちを正直に話す。照れくさいが、自分にウソをつくのはやめようって思っているから。

「実は、俺もずっと複雑な気分だったよ。お前とミサキが付き合うようになったのが分かって...........。けど、あの時は自分でも分からなかった。女の子と付き合えたし、普通に結婚するのかも、なんて頭をよぎった娘もいたから。」
拓海も正直に話してくれて、オレたちはどうして最初にこういう会話をしなかったんだろうと思った。普通はここからだ。
気持ちを伝えあって、付き合って、身体の関係になる。

長い事そういうフツウを忘れていたオレには、この後手後手に回った状況が滑稽で可笑しくて。
すぐにカラダで繋がる事ばかりを考えてしまっていた。

「なぁ、金曜日の事だけど............。」
オレが小さな声で拓海に言う。
「.........ああ、アレな。」

「覚悟してヤるってのも変な話でさ、オレも力が入っちゃったけど、そこは普通にしようぜ。気分が乗らなきゃしなくたっていいし。」

「ああ、分かった。..............そうだな。」

そう言うと、切った材料を鍋に入れて炒めだす。
オレは、少し離れて拓海の横顔を眺めた。綺麗に通った鼻筋で、横顔もカッコイイ。チカちゃんや山野辺さんが言う通り、女子が放っておけない男だと思う。そんな男が、オレのカレシになりたいと.........。

そう思ってくれただけで、凄く幸せな気持ちになれた。

「あと何分で出来る?」とオレが聞くと、拓海は鍋に水を入れながら、「これが沸騰して15分したらカレールーを入れる。それから10分かな。..........取り敢えず最初の15分間で、キスは出来るな。」といって笑った。

「あ、そうか..........じゃあ、時間を有効に使おう。」
拓海の隣に身体を置くと、オレは鍋の蓋をずらして、そのまま拓海の腰に手を回す。

...................チュ...................、

15分間も、キスだけで耐えられるだろうか。
拓海の閉じた瞼を眺めながら唇に吸い付くと、何度も食むように重ねた。






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