『君と まわり道』 60


 拓海の身体を持ち上げると、テーブルにそっと降ろす。
腰掛ける拓海と向き合うと、ゆっくり顔を近付けた。最初は互いの瞳を見つめ合って...........。
そのうち、拓海の腕がオレに伸びると背中にまわった手に力がこもる。ギュっと強く抱きしめられて、オレの手も拓海の腰にまわり互いに身体を密着すると唇を重ねた。

 チュッ、というリップ音が鍋の沸騰する音にかき消され、それを耳の奥で聴きながらもオレたちは唇の熱を確かめ合う。
何度も何度も食むように触れては離すが、やがて拓海の舌がオレの咥内を這うようにまさぐる。それに応えるかのように、オレも拓海の後頭部においた手に力を込めた。このまま時が停まってしまうんじゃないかと思う程、熱い抱擁とキス。

 グツグツと野菜の煮える音がして、チラッと目の端で確かめると、もう一度チュッと音をたてて拓海の頬にキスをした。
「もう、そろそろ煮えたか?!」
オレが拓海に言う。
「ああ、..........アッという間だな。」
ふふっと笑うと、拓海は腰掛けたテーブルから身体を降ろして鍋の具合を見に行った。



* * *
久しぶりに家庭料理を食べる気がする。

「拓海は基本、晩飯は自炊だろ?」
「ああ、ほとんど。でも、仕事で遅い時はやっぱりコンビニ弁当だよ。外食なんてたまにじゃないと無理だしな。」
スプーンを口に持って行きながら言われ、オレはハッとなった。

- そういや、ここに住むって言って’家賃’の事とか話し合っていなかったな.........。
このままじゃミサキの時みたいになる。


「あのさ、オレにも家賃半分払わせてくれよな。それに光熱費とかいろいろ.....。」
そう言って拓海の顔を見るが、オレの方には目をやらず黙ったまま。

「.............、拓海?!」

「............、半分ならオレにも払えるんだし、............」
尚も話をするオレに、
「アツシ、...................ここ、引っ越そうか?」

「........え?」

拓海が急に言い出すから驚いた。
それに、そんな金はない筈。まだ社会人になって2年目だし、ボーナスだってどれだけ貰ったかは知らないけど、引っ越しなんて出来っこない。

「俺の上司の親が賃貸マンションの経営しててさ、築20年の物件があるんだけどファミリー向けで3LDK。親が田舎に家を建てて引っ越すってんで、そこに住んでくれないかって言われてる。」

「え?3LDK、って.............スゲエ広いじゃん。その親はそこに住んでたのか?」

「ああ、管理人を兼用していて。だから、必然的に管理人の役目もしなきゃならないんだけどな...............。」

「管理人、って、どんな事するの?」

「別に毎日何かをする訳じゃ無い。たまに通路を掃いたり、雑草抜いたり、後は点検業者が来たときだけ立ち会うらしいけどな。」

「へぇ、...........そうなんだ..........。え?!ひょっとして前から頼まれてた?」
オレが拓海に聞いてみる。もしかすると、彼女がいる時に結婚を意識して上司が進めてくれたのかもしれない。でなきゃ、男の一人暮らしに3LDKは進めないもんな。家族が出来るって事前提でなきゃ..............


「ああ、付き合っている娘がいるって言ったら進められた。お前がまだ上に住んでいる頃だけどな。」

「あ、..............そうか。........あの娘、な..............。」

顔が浮かんで、少しだけ胸がチクッとした。

「別に、どうしてもって進められた訳じゃない。これから結婚しそうな若い奴らみんなに声かけてたんだし........、けど、築20年て古いからなぁ、まだ借り手は無いみたいなんだ。」

「そうか、..............まあ、5万円くらいで貸してくれるんならな。したら2万5千円ずつだろ、楽勝じゃん。貯金も出来るかもな。」
オレが笑いながらふざけて言うと、「3万でいいって。」といった。

「え???っ、サンマンエン??」
思わずスプーンを落としそうになる。

「そう、三万円。その代わり、さっきの仕事っていうか、管理人の役目もするんだけどな。」


オレの頭の中で3万円の札がひらひらと舞っている。3LDKのマンションに3万円で住める。
すごくおいしい話のような気がする。
でも、....................そうなれば、オレと一緒にそこへ住むことが上司にバレるって事だ。ただの同居人って思ってくれるだろうか。

「どう?考えてみるか?」
拓海がオレの顔を覗き込みながら聞いた。
「実は、京都の帰りにそのマンションへ行って来たんだ。会社に着く前に上司に電話してさ。」

「え?マジで............??それで遅かったのか。なんだよ、................。」

オレは呆れた。オレに内緒でそんな事.......................。
オレと拓海の二人の問題じゃ済まなくなる。会社の上司にも変に思われるんじゃないのか?
そう思うと怖くなった。
なのに、拓海が嬉しそうに話す顔を見ていると、オレまで幸せな気分になって...............
またもや複雑な気分だ。







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Re: No title


こんにちは、ようこそ。

> お?動き出した。

やっと二人に動きが・・・長かった~笑

> しかし、カレーを放ってキスに没頭してはイケマセン(笑)
> さぞかし、焦げ……いや、香ばしいカレーだっただろうなぁと(-_-;)

そうよね、鍋から目を離してはいけませんよね。つい・・・

ご訪問有難うございます。

No title

お?動き出した。
しかし、カレーを放ってキスに没頭してはイケマセン(笑)
さぞかし、焦げ……いや、香ばしいカレーだっただろうなぁと(-_-;)