『君と まわり道』 63


 
 何かに足元をすくわれた気がした。
ヘトヘトで立っているのも辛いっていうのに、自転車のペダルに足を乗せるが感覚が無くて.......。

そりゃあ、仕事だし仕方がないけど。オレだって別に期待していた訳じゃない。でも、この数日は入口まで行っては回れ右して戻って来るような、ドアノブに手を掛けては空回りして入れないような日々を過ごしてきたんだ。
それが、’勝手に飯食って先に寝てろ’.............?

はぁ.......................、一気に疲れが倍増だよ。
さっきまでのウキウキ気分は何処へ行った?!


自転車に乗って愚痴をこぼしていても気味が悪いだけなので、オレは人混みを避けると一本先の道に入った。
いつもは通らないが、ここからでも帰れることは知っている。ただ、本当に昔ながらの居酒屋とかパブのあるような通りで、避けていた。なのに、今夜はきらびやかな表通りには居たくなくて、自転車を降りるとゆっくりと押しながら歩く。

所どころにサラリーマンの姿が見えるが、一杯呑みの店とかは結構賑わっている。
オレが開け放たれた開き戸のある古い立飲みの酒屋の前を通った時、見た事のある横顔を目にして足が止まった。

「あれ?..................土田くん。」
思わず声に出てしまうと、彼がこちらを振り向いた。スーツ姿の彼は、紺色のジャケットを脱いで手に持ったまま、ぐい吞みを口に運んでいるところだった。

「あ、.........どうも。」
ぐい吞みをテーブルに戻すと、オレに会釈をする。ひとりで来ているようで、隣のリーマンとは離れて飲んでいた。

「ひとりですか?」と、一応聞いてみたが、「ははは、なんかおやじクサイ所を見られてしまった.........。ひとりですよ。」と言って笑う。
オレは、自転車を脇に止めると店に入った。入ると言っても、開きっぱなしの入口は何処からが店内で、何処からが道路なのか分からない。かろうじて暖簾が掛かっているだけだ。

土田クンの隣に行くと、店の人に同じものを注文する。

「渡部さん、飲むんですか?強そうには見えないけど.....。」
そう言われ、土田くんの手元を覗くと乾きものだけが置かれていた。
「飲む人って、つまみとか食べないで酒ばっかり入るっていうけど、土田くん強そうだねぇ、何杯め?」

「まだ2杯目ですよ。でも、俺はちゃんと飯も食いますから。帰ってから、ですけどね。」

ぐい吞みを持つと、クイッと口に運ぶ。中身は日本酒で、若い子はあまり飲まないんじゃないかと思っていたが、これは辛口なのか意外と旨かった。きっとミサキの部屋には日本酒が無いんだと思う。アイツはカクテル系を飲んでいるから。

「ミサキは?一緒に来ないの?」
と聞くが、オレがそんな事を聞くのは余計なお世話だ。「あ~、悪い、変な事聞いた。別に一人で来たっていいもんな。」と言い直す。

「はは、ミサキはこういう店が苦手らしくて...............。」と、少しだけ眉を下げた。

「ああ、だよね。」
オレと飲みに行くときも、大抵はバーとかで。お洒落な感じの店が好きみたいだった。
そういうオレも、大学生の頃に来たぐらいで、やっぱりこういう所はサラリーマンの憩いの場だと思っている。オレみたいなチャラい若造が来たら叱られそうだ。

「会社帰りに飲んで、この後はミサキの所へ?飯食いに?」と聞いた。

「まぁ、そんな所です。別に内緒にしている訳じゃ無いから、話してもいいですよ、俺と会ったって。」
土田くんはニコリと笑うと言ったが、「多分、話す機会もないだろうし、別にわざわざいう事でもないから。」と、オレは酒に口を付けた。ピリッとした苦みと、日本酒独特の甘い香りが鼻の奥から抜けてくると、目頭が熱くなる。

「そういえば、山城さんのトコに居るんですね。モトサヤって、ミサキが言ってましたけど.....。付き合ってたんですか?俺、てっきり山城さんはノンケだとばかり.........。あ、すいません。」
周りに目をやると、土田くんが頭を下げた。’ノンケ’だなんて、知らない人には分からない言葉。別に気にする事もないのに.....。

「拓海はノンケだよ。正直に言うけど、オレたちこれから付き合おうと思ってる。まだ入り口に立った所。」

「え?マジですか.............?」
驚く土田くんに、「マジ。」と言って笑みを浮べた。
今夜の電話でちょっと凹んでしまったが、こうやって同類と話をすれば気も晴れるような気がする。ノンケと付き合うと言うオレを好気の眼差しで見てくるが、それだけ大変な事をしようとしているんだと、改めて感じた。

「あー、でも頑張ってください。応援してます、俺たち。」
そう言われて複雑な気分だったが、土田くんはオレの恋仇じゃないし、そこは有難くお礼を言っておく。

「そろそろ帰るけど、バス?」と聞いた。
「ええ、俺はバスで....................。」

「なら、オレは自転車だからここで、...............おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」

会計だけ済ませると、店の外へ出て自転車に跨る。コップ酒一杯を煽って、気分が落ち着いたところで家路へと急いだ。



* * * 

インスタントラーメンを食べてシャワーを済ませると、もう時計の針は12時をまわっていた。
本当に拓海は遅くなる様で、支店のトラブルが響かなきゃいいが、と思う。
明日は土曜日で休みの筈だし、徹夜になっても大丈夫だろうと思ってオレも寝る事にしたが、なんとなく拓海のベッドで横たわるとアイツの匂いを鼻の奥に感じながら目を閉じる。
せっかくの’金曜日’が残念な事になったが、そこは無理にしても仕方のない事。気分が乗ってなきゃ意味がない。

昼間の疲れが出たようで、一人のベッドでオレの記憶は一気に飛んだが、どの位経ったのだろう、身体に違和感を覚えて目を開けてみた。と、ボヤリと浮かんだ拓海の顔がオレの腹の下にあって、ハッとなったオレは下着を穿いていない事に気付く。

「................、タ、クミ.............?!何、してるんだ...........?!」
掠れた声で聞いてみると、へらっと笑った顔でオレを見る。そして、オレの柔いモノを握る手に力を入れると、
「アレ、気持ちよかったから、今度は俺がしてやる。」

「.....................?は?」

「でも、ゴックンは無理かなぁ..................。」

そう言うと、オレのモノに舌を這わせた。

..........................ヤバ......................ッ!!







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