『君と まわり道』 67


 「あー、マイッタ。」

カンカン、とアパートの階段を降り乍らひとりぼやくオレ。

朝8時の日差しなのに、じりじりとキツイ季節になった。自転車置き場で日当たりのいい場所に停めていたせいか、サドルが若干熱くて痛めた尻を刺激する。

「くっそーっ!考えたらオレが休みの前日にヤれば良かったんだよなー。アイツの身体を心配して昨夜になったけど、結局オレじゃん!辛いじゃん!」
独り言を言いながら自転車を漕ぐと、アパートを出たところの道でばったりミサキに遭遇。

「あ・・・はよ。」
一応朝の挨拶をしたオレに、ミサキは立ち止まると口を手で覆い隠す。

「?.............なんだよ?!」

「........ごめん、気を付けて。」

その含みのある目つきが気になったが、遅刻しそうだしそのまま通り過ぎると、尻に刺激を与えない様にそっと漕いだ。


いつもの道のりが、ものすごく長く感じるのは何故だろう..............。
ようやくビルに入ると、ロッカールームへ直行。冷たいステンレス製のロッカーに荷物を押し込むと、汗ばんだシャツを脱いだ。
夏場は着替えを持たないと、自転車移動のオレは汗だくになる。一応接客業だし、汗臭いのは申し訳なくて、着替えてから店内に入ろうと着替えに手を伸ばした時。
「おはようございま、」
オレの後ろで途切れた挨拶をされ、振り返ると近藤さんの姿があった。

「あ、おはようございます。早番ですね。」
「ええ、............まあ、」

朝だから気分が乗らないのか、おとなしい声で言われてオレも黙る。朝からテンション高いのもつかれるしな.............。

今日は、白地に大きなブランドロゴの入ったTシャツを着る。それにジーンズを合わせて、アクセントに黒のボーンミサンガを付けた。
オレがロッカールームから出ようとしたとき、「ワタベくん。」と言って声が掛かった。
振り向くと、近藤さんが手招きをしていて。

「何か?」
首を傾げて近寄ってみると、自分の指を鎖骨の辺りにトントンとおいてオレをじっと見る。
「え?ここ?」
オレは自分の鎖骨の辺を指して聞いたが、近藤さんはうん、と頷くとニコリと笑う。

何か変なんだろうか.......。
心配になって鏡のある壁面へ行くと、その前に立って自分の姿をじっくり眺めた。

「あ、..................」

洗面所で顔を洗う時には、メガネをしないから気づかなかったが、オレの鎖骨の所にキスマークのような痣が出来ていた。
..........、なんという事だ、朝着ていたオープンシャツは胸元大きく広げてたっていうのに......。
ひょっとして、キスマークまでオープンに見せていたのか?

マジで恥ずかしい......................。
- 拓海のバカヤロー

さてどうしようか考えていたら、近藤さんが何かを手にして近づいてきた。
「良かったら、コレで隠して?!」
そう言って見せてくれたのは、スポーツする人が使っているテーピングだった。

「これをカットして、貼っておけば大丈夫じゃない?」
「あ、ぁ、すみません。使わせてもらいますっ。」

頭を下げると、少しカットしてもらった物を鎖骨の所に貼り付けた。
キスマークを絆創膏で隠すとか、ベタな発想だけど仕方がない。帰ったら拓海にお仕置きをしなくっちゃな.........。





* * * 
店に入ると山野辺さんが機嫌よさそうで。
「おはようございます。」
「あ、おはよう。ねえ、昨日の売り上げすごいよ。うちの店が一番だって。朝、部長が報告してくれてさ、..............って、ソレ、どうした?寝違え?」
そう言ってオレのテーピングの所を指差す。

「ああ、まあ、そんなトコです。」
「やっだー、気を付けてね。今日、明日はもっと売れると思うし、淳くんに頑張ってもらわなくっちゃ。」
「あ、はい。頑張ります。」

ひとまずは、バレなくて良かった。と、胸を撫でおろす。


その後も、軽く新作の話をするが、お客さんがやって来たので通常の仕事に就くと、首のテーピングの事を忘れてしまった。





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『オレンジタウン』残響のひかり。
第一章1話から11話までをまとめてあります
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幼少期の傷が癒えないまま大人の男になった主人公が
オレサマなゲイに猛烈アタックされるお話
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