『君と まわり道』 68


 雑踏に紛れて拓海の声が聞こえた気がして、思わず来た道を振り返った。
駅ビルの中、売り場から社員休憩所へと行く途中の通路は来客でごった返していて辺りをキョロキョロと見廻す。

「アツシ、こっち!」

名前を呼ばれて声の方へ向くと、エスカレーターを降りてきた拓海の姿が見えた。
黒のロゴTシャツにブラックジーンズ姿の拓海は、相変わらずの全身黒ずくめで.....。

「お、どうした?」と聞くオレに、鼻の頭を擦りながら近寄ってくると「ひょっとして昼飯?」と目を丸くして言う。

「うん、丁度今から行くとこ。」

「よかったぁ、間に合って。俺と昼飯食おう。別にいいんだろ?」
拓海がこんな風に店に来ることは珍しい。この間、京都へ出張の時以来だし、倒れたオレを迎えに来た以外は、職場に来ることはなかったから。

「いいけどさ、何処で食おうと時間通りに戻ればいいんだし。どこ行く?」

「この上の店でいいよ。空いているトコ。」

「オッケー。」
そう言うと、二人でエスカレーターに乗って食堂街の階まで上がっていった。



- - - 
流石に土曜日という事でどこも混んではいたが、その中でもなんとかラーメン店に座れると、早速注文をした。

「どうしたの?珍しいよな、店に来るなんてさ。何か買いたいものあった?」

「や、そうじゃないけど、アツシがどうしてるかなって.......、ちょっと心配でさ。」

「は?オレが?..............何を心配するんだか、風邪はもうすっかり治ってるし。」

「いや、そっちじゃなくてさ、.........昨夜の、............尻、大丈夫?」

拓海の言葉に、一瞬で顔が熱くなった。こんな素の時に、そんな事を言われて.............。
「ばか、尻とか...............、言うんじゃないってば。聞かれんだろ。」
ちょっと周りに視線を向ければ、誰かに聞かれてるんじゃないかと心配になった。
なのに、拓海はキョトンとした顔で、オレの言葉が理解出来ない様だった。

「何?なんかまずかった?別に聞かれてもいいけど.................。」
まるで、オレの方が変な事を言っているような顔つきで言われて、ちょっとムカつく。

「良くないだろ。そういうの、外では言うな。」
「は?なんでだよ、熱下がったかって聞くのと変わんない。外で言うなって................気にし過ぎだ、アツシ。」

「お前なぁ、......」
と、言ったところで注文したラーメンが運ばれて来て、一旦話は中断した。

向かい合ってラーメンをすすったが、拓海の顔をチラリと見てはまた自分の麺を口へ運んだ。
何が、熱下がったか聞くのと一緒なんだよ..................。
全然違うから。オレひとりがホモって思われても別にいいんだけど、拓海まで変な目で見られるのは嫌だ。

「そのテーピングの、..............誰に貰った?」
水を飲むと、オレの襟の辺りに目をやりながら聞く。少しだけ口元があがっていて、笑いをこらえているようで、今朝の事を思い出したオレは又ムカついた。

「そうそう、お前に言わなきゃって思ってたんだよ。マジで勘弁してくれよなぁ、オレ接客業だぞ、見えるトコは困るっての。」
拓海にだけ聞こえる様に、声を殺して抗議をしたが、拓海はまだ笑いをこらえている。
ラーメンの汁をすすりながら、オレは眉間にシワを寄せる。

「ゴメン。けど、意識せずに付けちゃったんだよ、勘弁しろ。それで、誰に貰ったんだ?」
しつこく聞くので、靴屋の近藤さんの事を話したが、なんだか思っていた相手ではなかったらしくて、なぁんだ、と言った。
つまらなさそうな顔をしてオレを見るが、その内、ぐるっと首を回して真剣な目つきになると
「アツシ、気を許すなよ?!親切にされると、お前はすぐ付いてっちゃうトコあるからな。ちゃんと恋人はいるって言っとけ。」
そう言って箸を置くと腕組みをしてオレを見る。

「は?..............何いってんの?」
呆気にとられながらも、’恋人’って言葉に顔が熱くなるオレ。そういう言葉を口にしてしまうところが拓海らしいっていうか......。

微妙な空気のまま、食べ終えたオレたちは店の外へ出た。
その流れで、なんとなくオレの店まで付いて来た拓海だったが、山野辺さんの顔を見ると「こんにちは。」と挨拶をした。
前にここで出会っているので、山野辺さんも顔を覚えている。

「今日はスーツじゃないから、雰囲気が違って........。でも、やっぱりカッコいいわぁ。モテるでしょ?」
早速山野辺さんが拓海に近寄っていくが、それを見ていたチカちゃんは目つきが変わっていた。
「あ~、どうも!渡部くんのお友達ですよね。」
接客していた人が離れた途端、こちらに向かってくると拓海に言った。

「どうも、この間はアツシがすいません。皆さんにご迷惑かけてしまって.....。」
拓海は、山野辺さんとチカちゃんに頭を下げると言ったが、オレは横に居て恥ずかしくなった。
..............なんか、オレの保護者みたいだな.................

「やだぁ、しっかりしてるぅ~。ホントに淳くんと同じ歳?」
そう言ったのは山野辺さんで、チカちゃんも「ホントにねぇ。」と納得するように頷いた。
が、何を思ったか、「そういえば、彼女さんは?今日はデートじゃないんですか?」なんて事を聞いて、拓海はキョトンとした顔でオレを見る。一瞬、オレの胸の奥がモヤっとして不安になる。と、

「彼女じゃなくて、アツシが俺のカレシなんで。さっき、ラーメン食ってデートしてきたトコですよ。」

その言葉を隣で聞くオレは、血の気が引くって、こういう事なんだと分かる。立っているのに、崩れ落ちるような感覚に襲われて、オレは誰の目を見る事も出来なくなった。オレに集中する視線を肌で感じると、なんとか倒れないように踏ん張る。






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