『君と まわり道』 69


 賑わう店内のざわめきも、オレの周りだけは閉ざされた空間の様に、耳には入って来なかった。
下を向いて目を閉じるオレに、トン、と肩を押す手の感触が伝わると、顔を上げる。
山野辺さんは驚いてはいるが、オレがゲイだと知っていて、今は相手が親友の拓海だと言う方に驚きを表しているようだった。
でも、チカちゃんに至ってはオレの性癖を知らない。ノーマルだと思っているから、その顔にはなんとも言えない驚愕の表情を浮かべている。眉はつり上がり、口はあんぐりと開ききって、瞳孔が開きそうな程動かない瞳でオレを見た。

「あ、そうだったんだ。なぁ~んだ、親友だって聞いていたから.....。でも、淳くんにはしっかり者の相手が居てくれて良かったわ。これで正社員になっても安心。前のままじゃ、心配だったのよねー。」
山野辺さんはオレの顔を覗くようにして言った。

「え?............正社員って..............?」
いま、サラッと大事な事を聞き逃したような気がして、もう一度山野辺さんに聞いてみた。

「来月から、淳くん正社員になってもらうから。店舗は今まで通りここになるんだけどね、でも、成績いいからもっと大きなショップに移動になるかも。..............どう?」

「...........どうって、モチロン有難いッス。頑張りますから、オレ。」
心から叫びたくなるほどの喜びをかみしめると、横でじっと聞いている拓海の顔を見る。
「良かったな、アツシ。ついに正社員だ。」
拓海はニコリと微笑むと、山野辺さんにも頭を下げていた。

「あっ、のーーーー、それはおめでたいんですけどーーーーー、」
山野辺さんの隣でチカちゃんが言った。どうにも解せない表情のまま、オレと拓海と山野辺さんの顔を交互に見ている。

「山野辺さん、知っていたんですか?渡部くんがそっちの人って事。なんで言ってくれなかったんですか?」
自分だけが蚊帳の外だった事に腹を立てているんだろうか、口を尖らせると山野辺さんに言った。

「ま、デリケートな事だし、チカちゃんが淳くんに好意を持っていたら話そうとは思ったのよ。けど、そうでもないらしかったから黙っていたの、ごめんね。」
「まぁ、いいですけどねー、っていうか、お友達の方が渡部くんのカレシとかの方が私的にはショックですぅー。」

「ごめん、チカちゃん。」
思わずオレが謝ると、ムッとした顔でチカちゃんがオレを見る。
「あたしが渡部くんに負けるなんて.............、ショックだわ。でも、まあ、そっちの人なら仕方がないか。」
「いや、拓海は、」
「なんか、よく分かりませんけど、今後ともコイツの事、よろしくお願いしますね?!」
と、オレの言葉を遮る様に拓海がチカちゃんに言う。口角をあげてニコリと笑顔を向けられたチカちゃんは「はい、お願いされます。」なんて、上機嫌になって答えていた。


...............コイツ、女たらしか?!

改めて拓海の事をそんな風に思ったオレは、肘をコツンと突いてやる。
なのに、拓海は気にするでもなく、オレに向き合うとニッコリ微笑んで、「じゃあ、これで失礼します。」と、二人に視線を向けると言った。

「さよなら~、又来てくださいね~」
山野辺さんもチカちゃんも、すっかり拓海の虜になってしまったようで、手を振ってお見送りをしている。
それを横目で見るオレは、もう一度自分の鼓動が跳ねる音を感じて心地よくなっていた。恥ずかしさもあるが、拓海の口から堂々と言われた’カレシ’って言葉がくすぐったくて。

いつもの様に接客をしつつも、気分は晴れ晴れとしていた。
商品を説明する言葉も軽くて、好きな物を誰かに分かってほしいと思う欲求は、人も、モノも一緒なんだろうかと思う。
自分の’好き’を伝える事は、ファッションだけだったオレが、今は拓海の事も’好き’だという事を伝えたい。
少なくても、オレを理解してくれる人には伝えたいと思った。



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コメント

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Re: No title

宙水さん、いらっしゃーい。

拓海がサラッと言ってしまって、アツシはビビりまくりでしたが・・・笑
アツシは拓海が好奇の目で見られるのが嫌だったんですよね。なのに、拓海はアツシが好き過ぎてそんな小さい事にはこだわらない。
ホント、好きな人の事は堂々と話したいんです。
男前の拓海を分かって頂いて嬉しいです(^^♪

早く宙水さん宅の俊平くんも話しちゃってくださいね。後半って、どのぐらいかかりますか~?
有難うございました。(#^^#)

No title

わかるわかる。うんうん♪好きな人のことを話す時って、こうくすぐったくて嬉しくて、ノロケなんて俗なものじゃ無くて、うちの俊平も同じような経験して、一人でウキウキしています(笑)後半にならないと出てこないんだけどー(´;ω;`)ウッ…
でも、こういうシーンって書くの楽しいですよね。拓海、男前じゃん!