『君と まわり道』 70 


 昨日に引き続き、好調な売れ行きにホクホク顔の山野辺さんだったが、店内の商品を補充するオレを呼ぶとストックルームへと向かった。
「なんですか?」と、首を傾げるオレに「今、彼の所に同居しているんだよね?!会社に登録しなきゃいけないから、住所変更書類に記入しておいてね。」と言った。

すっかり忘れていたけれど、オレの住所はミサキの部屋のままだった。なんかバタバタしちゃって、それに同じアパートだったし引っ越した感覚が無くって........。

「分かりました。区役所行って来なきゃならないんで、来週でもいいですか?」

「いいわよ、じゃあ、お願いね。今日は時間通りにあがっていいから。」

「あ、はい。有難うございます。」

流石に昨日の今日で疲れていたオレは、時間で帰れるという事に喜んだ。
それに、............拓海に早く会いたい。
そんな気持ちになると、あと1時間が待ち遠しくて.............。




- - - 
日が長くなると夕方6時をまわっても外は明るくて、活気のある街並みを抜けると、オレの自転車を漕ぐ足にも力が入る。
一刻も早く拓海の待つ部屋に帰りたいと思うなんて、オレ、どうかしちゃったんじゃないのかな。
山野辺さんはともかく、チカちゃんにもバラしちゃって。でも、拓海が自分から言ったんだ。それって、誰になんて言われてもいいって事だよな。オレと同じところに立ってしまうのに.........。

住宅街に入ると、アパートの外観が目に入る。相変わらずの古びたアパートは、あの日オレが家を追い出されて拓海を頼って辿りついた時のまま。
錆びついた階段は、一段上がるたびにカンカンと高い音を出している。あの日のオレは、こんな気持ちでこの階段を昇る日が来るだなんて思ってもみなかった。

古いドアをノックすると、「はーい。」という拓海の声が。
「おかえり~」と、ドアを開けるとオレに微笑んでくれた。
「ただいま~。」
拓海の顔を見たら、無性に抱きつきたくて、そのまま玄関で身体を抱き寄せる。

「おい、おい、どうしたんだよ。」
そのままじっとオレに抱かれたままで聞くが、「いいから........。」と言って、オレは胸に顔を埋めると思い切り拓海の匂いを嗅いだ。
- やっぱり安心する。


「あ、晩飯はスパゲッティーな。魚介類の。」
「うん、イイネ。」

名残惜しいが、拓海から離れるとキッチンのテーブルに目をやる。
オレが、帰る時間をメールしておいたから作ってくれていたんだ。そんな事までもが更に有難くて...........。
「有難うな、拓海。いい嫁さんだよ。」と言って笑った。

「ばーか、誰がヨメさんだ。これからはアツシにも手伝わせるからな。」
そう言うと、オレの尻を揉む。それから肩に手を置くとオレのほっぺにブチュっとキスをした。
「ちょ、........っとぉ、」
オレは頬に手をやったが、尚も拓海がキスをしてくるから「お返しっ!!」と言ってこっちもブチュっとし返してやった。

笑いながら互いの頬にキスをしまくって、その内目が合うと急に拓海が黙り込む。

「ごめんな、勝手にバラしちゃって。アツシに相談もせずにさ。けど、どうしても話しておきたくって........。」
そう言いながらオレの背中に手を回した。真剣な拓海の顔は、オレには頼もしく映る。

「いいよ、ビックリしたけど.....、オレはいいよ、でも、お前がホモって思われてもいいのかと心配になった。」
正直に言うと、拓海はオレの顔を覗きながら
「まともじゃないって、前に言っちゃっただろ?!あの後自己嫌悪に陥ったんだ、俺。」
少しだけ寂しい顔で言ったが、確か松原の話の時にそんな事を言われた様な.....。

「お前が俺を頼ってここへ来た時、ゲイだって聞いて心のどこかで思ったんだと思う。アツシの事が好きだって分って、自分もまともじゃないんだって思ったよ。でもな、どうしようもない。この気持ちをどう表せばいいのか............。言葉にして話してしまったら、俺自身スッキリしたんだ。言ってよかったと思ってる。」


「.............拓海、.............オレも恥ずかしかったけど、凄く嬉しかったよ。カレシって言ってくれて、なんか、最高に気持ちいい。」
「.............良かった.............。」

暫くの抱擁のあと、オレたちは冷めないうちにスパゲッティーを味わったが、口に運んでは互いの目を見て照れる。
ささやかな幸せを噛み締める様に、見つめ合う瞳には情が溢れ出していた。


片づけを済ませて、シャワーも済ませるとベッドに横たわる。結局、拓海のベッドで寝る事になると、ダブルベッドが欲しいと思うオレだったが、
「ここにダブルベッドは入んねぇよな。それにキッチンから丸見えだし.........。」
そう言って拓海の顔を見る。

「だったら、この間の話、マンションに引っ越すって.........。あれ、受けてみるか?そこならちゃんと寝室が取れるよ。ダブルベッドも置けるし。」
目を輝かせて拓海が言うから、オレも納得してしまった。管理人の仕事はあるとしても、家賃は格安だし、部屋数もある。

「........、いいかもな。丁度、オレ住所変更の届を出さなきゃならなくてさ、そこへ入れるんならそのまま届け出そうかな。」

「明日、上司に電話入れてみる。まだ空いてたら、一緒に部屋見に行こうか?」

「ああ、そうだな。仕事終わってからでもいいんなら行きたい。」
オレはちょっと嬉しくなっていた。この間、コイツの上司になんて言うんだろうとか考えて怖くなったのに........。
全く調子いいな、オレって。


拓海がオレに腕を回してくると、オレも拓海に向き合ってそっと口づけを交わした。
ウットリするような、静かなくちづけ。互いを労り合うような感触が気持ちよくて.....。
ゆっくり時間が過ぎると、自然と心地よい眠りにつく二人だった。





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コメント

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Re: No title

こんにちは。

> すっかり、気分は挙式門前の若いカップル(笑)

そうなんです。何故か重荷が一つ外れただけで、ウッキウキ!

> いちゃいちゃしてるなぁ~♪

普段冷静な拓海のイチャコラする顔って、どんなだろうか.....。
ちょっと想像してみます 笑
いつも有難うございます。

No title

すっかり、気分は挙式門前の若いカップル(笑)
いちゃいちゃしてるなぁ~♪