『君と まわり道』 71


 次の日、拓海が上司に連絡をしてみるというので、オレは携帯メールの通知を待っていた。
社員が昼食をとる休憩所で、テーブルにスマフォを置いてサンドウィッチを頬張ると、「お疲れ様です。」と言って靴屋のチアキちゃんがやって来た。オレの隣に腰を降ろすと、前の様に彼女の手作り弁当を広げる。

「お疲れ様~、彼女出張から戻ったんだね。」
弁当を覗きながら、チアキちゃんに言うと、「そうなの。やっと戻ってきたのよ~、又お弁当食べられて幸せよ~。」と、満面に笑みを浮べた。
やっぱり、好きな人と離れているのは辛い。そうでなくても、オレたちは男女のカップルの様に表立ってイチャイチャ出来ないんだ。
二人きりの時を過ごすのが、どれだけ大切かって事が身に染みて分かる。

「そういえば、ノンケくんとはどうなの?うまくやってる?」

「ああ、それが............、実は一緒に暮らそうって事になって、いま、物件を見に行くのに連絡待ちしているトコ。」

「ええ?ホントに?!.............いいなぁ、そんなの夢だよ~。私実家暮らしだし、梨沙とは同棲したいんだけどね~。」

オレの事が本当に羨ましいみたいな顔で、口を尖らせて言うから................。
オレばっかり幸せで申し訳ない気持ちになった。彼女たちの気持ちは痛い程分かる。

「まだ、住めるかどうかは連絡が来ないと分からないんだけどね。」
そう言うと、残りのサンドを口に放り込む。

テーブルに置いたスマフォのバイブレーションが通知を知らせてくれると、オレは慌てて画面を開いた。

そこに書かれたのは、’OK’の文字と、待ち合わせ場所と時間。
駅の構内で待ち合わせをすると、一緒に電車で向かう事になる。住所はこの駅から3つ目で降りると、歩いて10分の場所らしい。

「よかった~、部屋はまだ空いていたみたいだ。仕事終わったら部屋を見に行ってくる。」
オレがチアキちゃんに言えば、「あらー、良かったわね。」と微笑んだ。
その笑顔に感謝しつつ、休憩が終わって売り場に戻ると、もう一度携帯のチェックをした。



- - - 
待ち遠しかった時間がやっと来て、拓海と待ち合わせの駅構内でオレは一人佇んでいた。
暫くして、拓海が走ってやってくる。

「お疲れ。良かったよ、今日見に行ける事が出来て。」
オレが拓海に声を掛ければ、拓海もうん、と頷いていた。

「マンションの場所も教えてもらったから、上司は先に行って待ってるってさ。」
拓海の言葉を聞いて、ちょっとだけ緊張が走る。オレの事はどういって紹介したんだろうか................。
「あの、さ、..........オレ、なんて言って挨拶したらいい?お前の上司なんて、ハードル高いよー。」

「アツシの事は話してあるよ。仕事の事とか、あと、自分と付き合ってるって事も。」

さらりと言われるが、オレは思考回路が故障したかのように動けなくなった。
付き合っているって...................?

「お前、マジで言っちゃったの?」
オレが小声で聞くと、拓海は顔を近付けて耳元でささやく。
「アツシが女だったら、結婚したいぐらいには好きなんだってこと、ちゃんと言ったよ。もちろん冗談かと思われたけどな。」

「..........、そりゃあそうだろう。拓海がホモなんて思えないもん。ちょっとショックだったか?」

「まあな。けど、住むのは了解してくれたよ。物件が気に入れば、だけどな。」

「ああ、そりゃあそうだよな。先ずは部屋を見ない事には始まらない。」

オレと拓海はやって来た電車に乗り込むと、奥のポールの所で立っていた。
日曜日だし、夕方でも乗客は多くて、拓海とオレは自然と身体を寄せる事になる。

3つ目の駅で降りると、そのまま拓海の携帯を眺めて歩いて行く。
と、7~8分歩いた所で、マンションが見えてきた。
4階建てのマンションは、お世辞にも綺麗とは言い難いが、レンガ色の外壁が落ち着いた雰囲気になっていて、その前で立ち止まると、上を見上げてみる。

管理人だというのに、4階というこのマンションの最上階で住むことが出来るなんて。
少しだけ感激を味わいながら、オレ達は指定された最上階の部屋へと向かった。


廊下にはクッション材が敷かれているようで、足音も聞こえないようにしているらしい。
ドアの前に立つと、二人でチャイムを鳴らし、一旦深呼吸をしたオレたちは、互いの顔を見合う。






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