『寄り道しないで帰ろうよ。』 405号室-2


 荷解きもすっかり終わり、ひと通り片付いた部屋をぐるりと見回す。
和室の畳の上に腰を降ろし、波打つ目地を指でなぞると、高校卒業まで住んでいた実家の部屋を思い出した。所どころ剥げた古い畳は、直に座るとい草のひんやりした感触が気持ちよくて.....。

 さっき乾拭きをしたばかりで、俺は畳の上に横たわると大の字になって天井を眺める。ここが俺の新しい部屋。そんな事がじんわり胸にしみると、リビングのソファに座るアツシを見た。

 リビングと続きの様に配置されたこの和室は、襖を開け放てばリビングからも丸見えで、プライバシーを守る事には適さない気もするが、それでも、ここからアツシの顔が見える事でちょっと安心する。何を見ているんだろう、テーブルに置いたパソコンの画面をイヤフォンをしながら見ている。

 「アツシー」
 声を掛けるが、返事はない。

 「アツシッ!!」
 「.....なに?なんか呼んだ?」
 耳に挿した片方のイヤフォンを外すと、顔をこちらに向けてやっと返事が返ってくる。キョトンとしながら大きな二重瞼の目で見られると、俺はニヤケてしまった。変な話、男だし可愛い所なんてないと思っていたんだけど、俺の欲目なのか、アツシはパッチリ二重瞼で髪の毛も整えていないとフワフワ。何処か外国の男の子みたいで可愛い。

 「なんだよ、何か用?何寝てんだ?疲れたのか?」
 俺の顔を見ながら、尚も目を丸くして聞いてくる。

 「いや、別に用はないんだけど...........、疲れてもないし。」

 「なんだよ、呼んだだけ?.............ったくぅ~。」
 そう言うと、又イヤフォンを挿して画面に目をやった。 

 アツシの横顔を眺めると、やっぱりこの部屋で良かったと思う俺。
 広い家に越してきて、なんとなく取り巻く空気が寂しいような気がした。狭いアパートでは、常にアツシの気配が感じられて、それに慣れてきてたんだろうな。でも、ここに居ればアイツの気配は感じる事が出来た。

 「なあ、拓海。ちょっとコレ見て!」
 アツシが、さっき自分が見ていたパソコン画面をこちらに向けた。
 「なんだよ、何か面白いモノでもあったか?AVとかはやめろよー。」

 「バカ、誰がお前とAVなんか観るかよ!!.....これこれっ、これさあ、この間ショップに取材が入って、そん時オレ、撮られちゃったんだよ。」
 俺が横に座ると、アツシは画面を指でさして、アップされた動画をみせてくれた。

 「なんの動画?これ、店の紹介みたいなもの?」
 SNSに投稿されたらしい動画は、ショップ店員のランク付けみたいなものを載せていて、何故かその中にアツシの顔があった。
 「すっげぇ、二重人格。俺に対する言葉使いとまるで違うじゃん。それに笑顔がキモイ。」
 覗き込んでアツシに言うと、「はあ???てっめぇ.........、しばくっ。」と言って俺の首を掴んでくる。

 「ははは、苦しっ、ギブ、ギブツ、」
 アツシの腕を掴んで横に捻れば、簡単に組み伏せてしまって、思わず目と目が合うと、ドキっとした。
 さっき、晩飯の前に抱き合ったばかりなのに、こうして身体が触れてしまえば、また抱きしめたくなる。掴んだ腕の力を緩めたら、アツシも抵抗はしなくなった。
 
 「拓海って体育会系だっけ?!やけに腕っぷしが強いんだよな。暴力反対。」
 そう言って俺から離れると、また座り直す。
 「アツシがひ弱なんだよ。俺なんか何の力仕事もしてないし、かえってアツシの方が重い荷物とか持ってるじゃん。セールの搬入品とか段ボール何個も運ぶんだろ?」
 前に聞いたセールの時の事を思い出して言った。結構遅くまで設営に掛かって、帰って来たのは夜中だった。

 「確かになー、いくら台車に乗せるって言っても、手積み手降ろしだし。何個運んだかな、5~60箱くらい?!」
 「じゃあ、力無いと辛いな。」
 俺は言いながら、アツシの二の腕を掴むとぐにっと揉んだ。ちゃんと男の腕だ。決して柔らかくなんか無い。なのに、俺が抱くアツシの身体はしなやかで柔いような気がするんだ。

 「あ、なんか今、ヤラシイ事想像しただろ!」と、アツシに指摘されて思わず顔が火照る。
 「ば~か。」
 ごまかす様に、アツシの頭をコツンと弾いて、俺は立ち上がるとキッチンへ行った。
 
 蛇口をひねって水を出せば、コップに入れてごくりと飲み干す。 
 環境が変わったせいなのか、今日はアツシに触れるとすぐ抱きたくなってしまう。アパートにいる時には、こんな風にならなかったのに.........。自分が変になった感じがして、自分で可笑しくてニヤケた。

 「そういえば、明日はこのマンションの人に挨拶しに行くんだろ?!オレ、仕事終わって帰って来るの7時半ぐらいだけど、いい?」

 「ああ、明日向こうのアパートの引き渡しもあるし、テーブルとか渡すの手伝ったら遅くなるだろ。俺もそのぐらいの時間になると思う。森口さんは、お知らせの紙をポストに入れておけばいいって言うんだけど、一応どんな人が住んでいるのか、顔、見ておく方がいいもんな。」
 「そうだよな。これから色々あるかもだし.......。挨拶だけでもしておく方がいいよ。」
 
 「アツシが帰ってきたら一緒に行こう。」
 「うん、分かった。」
 少しだけ緊張すると、明日に備えて俺たちは寝る準備を始めた。



 洋間に置いたダブルベッドに潜り込むと、何処かのホテルにでも行ったような気になって、妙に気恥ずかしい。慣れない部屋のベッドの中で、アツシが背中を寄せる様にくっついて来る。エアコンのスイッチを入れると、俺は布団を被ってアツシの背中に手を回し、腕の間をすり抜けると脇腹から抱き寄せた。
 「今日はもう無理だよ、オレ。」
 アツシがボソッと呟いて、俺の気持ちを制止すると、静かになった。

 「了解しました。おやすみなさい。」
 「おやすみ。」

 回した腕の暖かさと、額に当たるアツシのふわっとした髪の感触に癒されながら、俺は長い一日を終えると静かに目を閉じた。





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コメント

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No title

はぁ~、熱(暑)いのは梅雨だからですかね?
この二人の所為ですかね……、何だよぅ、前作、終わった寂しさとか全然、余韻なくアッチィじゃん(笑)
あてられっ放しっすね。