『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-6


「それじゃあ僕はこれで。」

 テーブルに料理を運んでくれた後、田嶋くんが俺に向かって言う。

「え?一緒に食べるんじゃなかったの?」と聞き返すと、「はい、作りに来ただけで、僕は部屋の二人の晩御飯を用意しなくちゃいけないんで。」と言い、着けていたエプロンを外すとアツシに手渡した。

「ごめんな、手間取らせて......、今度お礼するからさ。」
 そう言うと、アツシはあっさり田嶋くんを玄関まで見送る。
 そんな二人を眺めながら、俺は又一種の疎外感を味わっていた。説明は出来ないけど、昨日今日で、こんなに親しくなれるアツシのコミュニケーション能力にも脱帽する。

 昔からそう、アツシは自分からガンガン行くわけじゃないが、女が絡まなきゃ誰とでも仲良くなれる性格だった。
 でも、本心は分からない。家庭環境のせいなのか、とにかく一人でいるのは寂しいみたいで、表面上は付き合いがいい。そのくせ奥深くまでは入って来なかったんだ。
 

「助かった---、こんなの一人じゃ作れないもんな。」
 田嶋くんを見送って戻って来たアツシは、テーブルに着くと言ったが、俺が黙ったままなのでこちらに目をやる。

「いいな、アツシは。誰とでもすぐに仲良くなれて---。お前の方が営業向いてるよな。」
 俺は、目の前のサラダにドレッシングをかけると言った。別にイヤミで言ったわけじゃないが、どちらかと言えば、真面目過ぎると言われる俺には、アツシの性格は羨ましかった。

「はは、何言ってんだ。こんなの営業じゃないし、仲良くって言っても、料理を教えてもらっただけだろ?!」
 サラダに箸を付け乍ら言うと、少し首を傾げて笑う。俺からしたら、簡単に部屋にあげて料理の手ほどきを受けるなんて、かなり親しくないと出来ない事だった。
 彼女と付き合い始めても、部屋に呼ぶまでに時間が掛かった程慎重になる。なのに、アツシはいとも簡単に知らない人間をあげちゃうんだ----。

「で、これがビシ、なんとか、ネ?!」
 目の前に出されたスープ皿には、クリーム色のスープが注がれていて、ほのかにいい香りが漂っている。スプーンで掬うと、口の中に流し込む。
「あ、なんかワインとか入れた?ブイヨンとワインの香りが鼻から抜ける。舌触りはおもいっきりジャガイモなんだけどな。」
 喉ごしはいい様な気もするが、ポタージュスープとどこが違うのか分からない俺。

「うーん、美味い。冷たくしたからこの季節にはピッタリだ。拓海、ジャガイモ好きだろ?」
「ああ、好きだけど.......、こんなシャレたスープでなくてもいいよ。田嶋くんにも悪いし。」

「..........、う~ん、まあな。けどさ、やっぱり手慣れてるっていうか、田嶋くんのお蔭ですっごく早く出来たよ。今度お前にも教えてやるから。」
 そう言って、アツシはおいしそうにスープを口に運ぶと、ゆっくり飲みほす。少しだけ自慢げな顔つきが、俺には子供っぽく映って可笑しいんだけど、俺の為に作ってくれたのだと思ったら、なんだか胸が熱くなった。
「ありがとうな。作っててくれて助かった。今日はちょっと外回りで疲れてたんだ。」
 アツシに礼を言うと、「おう、別にいいよ。」と、顔を赤くする。
 田嶋くんの事で、ちょっと拗ねてた俺は、アツシのこんな顔色一つで気分が和む。



 片づけを済ませると、それぞれにシャワーを終えて、リビングでくつろいでいた。
 大きな革張りのソファーに身体を預けると、俺の膝の間にアツシが入ってくる。
「営業って、いろんな取引先に顔出さなきゃなんないんだろ?!大変だよな。オレには無理だと思うよ。」
 アツシが膝の間で体重をかけると、俺の方を振り向きながら言う。

「無理な事ないって。俺の方がよっぽど、だよ。自分で向いてないって思うもん。」
 俺がアツシの髪の毛を指に絡めながら言うと、更に身体を乗せてくる。

「拓海の誠実さは、相手にも伝わると思うよ。調子のいい事ばっかり言ってる営業じゃ、信用失くすもんな。オレなら拓海から商品買うもん。キッチリしてくれそうで安心する。」

「お、何だよアツシ.....、今夜は俺を持ち上げてくれるじゃん。’買うもん’とか言うと可愛いな。」
 そう言うと、アツシの後頭部にチュッとした。

「何が’可愛い’だよ。恥ずかしいだろ!」
 アツシは俺の腕を掴んで自分のお腹の上で交差させると言う。少し後ろを振り向いて、俺の顔に近付くと、そうっと唇に触れた。
 しばらくぶりのキスの様な気がする。

 アツシの柔い唇を俺の舌で舐めながら、互いの鼻の頭を擦り合う。少しだけ開いた瞳には、憂いが見えてきて、俺の後頭部へ回した手に力が入ると、おもいっきり引き寄せた。
 「あ、っ、.............」
 一言だけ漏れた声は、アツシの甘い吐息とともに俺の脳裏をかすめて行く。





ご覧いただき有難うございました

にほんブログ村

人気ブログランキング
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント