『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-11


 シャワーを済ませて俺がキッチンへ行くと、アツシは冷蔵庫の中を物色しながら一人でニヤケていた。
「冷蔵庫の中になんか居たか?ニヤついてんなよ、キモイ。」

 アツシの横顔に言えば、こっちを向いて俺を睨んだ。

「別にニヤケてないし。.....お前の不機嫌はオレのせいじゃないよな?!」
 そう言うと、アツシは冷蔵庫からアイスのカップを取り出して、シンクの淵に寄り掛かると蓋を開ける。

「俺の機嫌がどうしたって?別に不機嫌じゃないだろ。俺は先輩と楽しく蕎麦食って、日本酒飲んで帰って来ただけ。すごく大人で尊敬できる人だったし。」
 神谷さんの事を言ったが、不機嫌と思われたのならその通りだった。実に面白くない。

 アツシの前を窮屈そうに横切ると、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを出す。コップを探しに、又アツシの前を横切った俺に、
「あっそう、良かったな。たまには会社の人と楽しんだらいい。どのみちオレとは休みも合わないし、同業者と仲良くするんだな。」
 今度はアツシが不機嫌そうに言った。アイスのカップにスプーンを突き立てて、グリッと回し取ると口いっぱいに頬張る。
 俺に食べるかと、聞きもしないんだ。 

「オレ明日休みだから、朝は起こさなくていいよ。」
 アツシがスプーンを流しに置くとそう言って俺を見る。
「頼まれた時しか起こしてないだろ?それに一回で起きた試しがない。好きなだけ寝ておけ。あ、でも洗濯はしておいてくれよな。」
 俺が立て続けに言うもんだから、余計機嫌を損ねたのか、アツシは返事もしないでそのまま浴室へと消えた。

 同棲と言えば、聞こえは甘ったるい感じを連想させる。でも、実際には生活の匂いがプンプンしていて、掃除や洗濯、料理を作ったりと全く甘くはない。以前からそんな事は百も承知。俺とアツシの共同生活もそこそこ様にはなってきた頃だ。なのに、ちょっとの気持ちの行き違いが二人の距離を遠くする。

 



 先にベッドに潜り込むと、俺はサイドテーブルに置いた携帯のアラームを設定する。
アツシとの休みのすれ違いは慣れているのに、今夜ばかりはなんだかモヤモヤとした気持ちのままだった。俺のアパートに居た頃は、アツシが誰かを連れてくるなんて事は一度も無くて、俺もそうしていた。
 ここに来て、まさか田嶋くんをあげてしまうだなんて思ってもみなかったが、その割に俺たちの関係性は内緒のままなんだ。


 カチャリ、と寝室のドアが開いてアツシが入ってくると、俺は身体を横たえて眠る準備をした。枕に腕を乗せると、目を閉じて軽く呼吸をする。そんな俺の横にアツシが腰を降ろすと、そっと肩を揺すって言った。
「拓海、.........オレ、明日休みだし、.............シてもいいけど、どうする?」

「....................、どうするって、.............」
 アツシの誘いは唐突で、分かりやすくていいんだけど...................。

「お前なぁ、シてもいいけどって.........、そういうのは雰囲気でするもんだろ?この状況のどこに、そんなエロさを醸し出すような要素がある?さっきまでメチャクチャ不機嫌だったじゃねぇか。」
 俺は思わず言ってしまった。お互いにそんな感じだったし、俺自身も気分は良くないままだ。

「だから、それは溜まってんだって。今日は後ろ使ってもいいからな、ちゃんと準備してきたし。」

「準備って..............、なんか、余計にヤる気をなくす。そういうのは、形式踏んでヤルことじゃないよな?!違うの?」

「..............、そりゃあ、感情に任せてって事もあるけどさぁ、この前みたいに最後まで出来ないんじゃ、お互いに辛くない?」

「それは、...............、そうかもしれないけど、別に俺はあのままでもいいんだ。お前がイヤッてんなら仕方がないけどさ。」

「あれはあれで良かったけど.....。やっぱり物足りなさが残るだろう?拓海は女とばっかりヤってきたし.....。」
「は?......」

 そう言われてカチンときた。俺のどこを見ていたんだ?女の代わりにアツシを抱いた覚えはない。アツシだから触れたいし、感じたいと思っているってのに.................。

「なら、あれか。アツシは物足りないって思ってるんだな。ずっとタチでヤってきて、俺とするようになったらネコさせられて。挿れさせてもらえないって..............。」

「おい、そんな事は言ってないだろ!」
 アツシの身体が、急に俺の上に乗ってくると、首を掴んで顔をじっと見つめながら言った。その目は怒りとも哀愁ともとれるような悲しい目だった。







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