『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-12


 - どうしてこんな話になった?!

 ベッドの上で仰向けになった俺の首に手を置いたアツシは、じっと見下ろしたまま動かない。酷い言葉を言ってしまったんだろうか。
「......アツ、シ、........首、絞まる.........」
 俺の掠れた声が聞こえると、アツシはゆっくり手を離す。それから、その手を自分の反対側の手で包むと「ごめん」と言った。

 一度発した言葉はもう呑み込めない。相手に伝わってしまったら後はどうにもできない。それが嬉しい言葉ならいいが、心痛める言葉だったら.........。
 
「アツシ、..............俺の言い方が悪かった、と思う。ごめん。」
 ベッドに腰掛けたまま俺に背を向けたアツシは、俯きながら手をさすっていた。
「もう、寝よ。なんか引っ越しからずっと忙しくて、疲れているんだ。こんな事で言い合いなんかしてバカみたいだよ。」

 枕を直すと、身体を少し横にずらしてアツシの入るスペースを開けた。
 アツシはそっと布団に入ってくると、俺の肩におでこを付けてくる。まるで、叱られた子供が親に甘えるみたいに腕を組んで寄り添っている。

 基本、コイツは寂しがり屋だった。フラフラと遊び回っていたのも、孤独を紛らわすためだ。だから、自分では分かっていないかもしれないが、人当たりはいいし客商売には向いていると思う。
 アツシが田嶋くんと仲良くなったのも、なんとなくわかる様な気はする。俺がいない時間を田嶋くんが埋めてくれると分かっているんだ。本能的にそう感じているのかも.....。

「今日一緒だった先輩に、俺とお前の事羨ましいって言われたよ。一緒に暮らしているって話したから。」
「............え?マジで?.............なんで言っちゃったんだよ、会社で変な目で見られたらどうする。オレ、そういうの耐えられない。」
 アツシが顔をあげて俺に噛みつくように言う。

「先輩もゲイだから。」
「あ、そうなんだ。じゃあ、大丈夫か。」

「でもな、その人会社内で知られているんだよ、ゲイだっての。それなのに堂々としてるし、恥じていないって........。そう言った。」
 俺は神谷さんの言葉をアツシに伝えた。アツシにはアツシの考え方があるだろう。でも、自分の事を恥じて欲しくはない。俺との事も堂々と話してほしいと思った。

「強いな、その人。..........オレはダメだ。オレひとりなら何を言われてもいい。でも、拓海がオレのせいで変な目で見られんのは嫌だ。」
「アツシ.........、お前、それで田嶋くんにも言わなかったのか?俺の為?!」
「うん、お前の為って言うのは大げさだけどな。けど、拓海が人から’気持ち悪い’って言われるのは悲しいよ。もしオレのせいでそんな事言われちゃったら、............どうしていいか分かんない。」

 目を伏せながら、切なそうな表情を浮かべて言うから、こっちまで切なくなった。
 アツシが周りに隠すのは、自分の保身の為と思っていた。それに俺との事を隠すのも、気楽な独り身を演じたいからだと.......。

「バカだな、お前は........。そんなの言われたって平気だ。何ならみんなの前でチュウしたっていいぞ。気持ち悪いなんていう奴は見せ掛けの常識しか持っていないんだ。」
 俺はアツシの身体を引き寄せると、ギュっと抱きしめた。フワフワの天パが鼻をくすぐるが、それを指ですくうと額にキスをする。

「オレがゲイだって分かった時、はじめに気持ち悪いって言ったのがオレの母親。その後、今の仕事の前に働いていたトコでも言われた。女の子に付き合ってって言われて、オレ、ゲイだから無理って言ったんだ。そしたら.......。」

「そりゃあ、なぁ、..........オフクロさんはショックだったんだよ。思わず言っちゃったんだろ。ま、信じられないってのは仕方がない事だ。女の子は、フラれた悔しさから言ったんだろ。どっちにしても、俺がそう言われても、それは俺の問題だし、アツシが悲しむ事じゃない。事実、俺は男のアツシを好きなんだからな。」

「拓海、................、ありがと。」

 アツシは俺の頬を指でなぞりながら、そっとくちづけをしてくれた。チュッという軽いリップ音が心地いい。
 
 二人の周りには、さっきまでのトゲトゲしさがなくなって、重なり合うと一つに溶けてしまう様だった。







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