『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-13


 朝、いつもの様に携帯のアラームで目を覚ます。
 遮光カーテンの隙間からは、すでに熱を帯びた光が容赦なく入り込んでいて、そこに手をかざせば焼けつくほどだった。

「おはよ」
 俺は小さな声で、隣に眠るアツシの肩肌にキスを落とすと、足音を立てないようにそっと寝室を出る。
 
 シャワーを浴び終えると、頭を拭きながらの朝食をとる。コーヒーとライ麦パンを口に入れ、サラダの代わりに果汁100パーセントのジュースを飲むと、さっさと仕度を整えて会社へと向かう準備をした。
 考えてみたら、俺とアツシの寝る時間はほとんど一緒。なのに起きる時間は、絶対俺の方が早い。って事は、俺の方が睡眠時間が短いって事だ。そんな事を考えながら、駅までの道を歩いた。




 会社の前で、社員の何人かと出くわす。同じ2課の奴もいれば別の部署の人間も。普段はフロアーごとに分かれているから、あまり顔を合わせる事が無い。でも、このエレベーターを待つ間は、別の部署の人間と話す事が出来た。
 降りてくるエレベーターを待ちながら、俺がふと横を向くと、そこには以前付き合っていた彼女の姿が.......。

「.....おはようございます。」
「あ、おはよう、ございます。」

 分かってはいたが、やっぱり気まずい。
 アツシと真剣に付き合いたくて、俺は彼女の方を切った。ふざけた話と笑われるかもしれないが、俺にとっては彼女よりアツシの方が大事に思えたから。

「暑いですね。」と言われて、「ああ、そうだね。」と返す。実にギクシャクした感じで、俺たちの周りの人間にも伝わってしまうんだろうか、こちらに視線を感じると下を向いて黙った。
 こういう時、同じ会社内での恋愛は難しいと思う。うまくいけばいいが、俺たちの様に別れてしまえば、次に顔を合わせるのがためらわれる。ほんの3か月しか付き合っていなくても気まずいんだ。長く付き合って破局を迎えたカップルは、やはりどちらかが会社を辞めたりしている。

 彼女の部署のフロアーでエレベーターが停まると、彼女を含めて3人が降りて行く。
 ドアが閉まる前に、ちらりと俺を振り返った彼女。その目は、何かを言いたげだったが、俺は気付かないふりをした。

「おはようございます。」
「あ、おはようございます。」

 営業のフロアーに降り立つと、顔見知りの同僚と挨拶を交わす。

「朝からこんだけ暑いと、やる気をなくすよね~。今日、外回りあるの?」
 そう聞かれて、「いいえ、今日はデスクワークを片付けようかと.....。それに会計に回さなきゃいけないのもありますしね。」と言った。 

「いいな~、こっちは外回りだよー。熱中症対策しておかないと、バテる。」
「はは、頑張って下さい。」

 そう言って別れると、俺は自分のデスクに着く。 
 


 

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