『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-15


 マンションまで着くと、彼らは階段で部屋まで上がって行き、俺はどうしようかと考えつつエレベーターに乗る事にした。

「ただいまー。」
 アツシが居るはずの玄関ドアを開けた途端、ムッとした煙っぽい匂いが鼻の奥まで入り込んで、思わず咽そうになる。何かが焦げた匂いというのか、魚とか、肉とか、そういった本体の薫りなど一切しないただの焦げ臭さ。

「アツシ~、何だー、これは!くっせーぞっ!!」
 靴を脱いで鼻を押さえながら廊下を進んで行くと、キッチンに居たアツシが水道の水を全開にして腕の先を冷やしているようで。
「ど、どうした?!火傷したのか?」
 慌てて駆け寄りその腕を覗いて見た。水の流れで見えにくいが、親指の付け根から人差し指の辺りが真っ赤になっている。

「痛いか?ちょっと見せてみろ。」
 俺は、アツシの肘を掴むと自分の目の前にやって指を確かめたが、一応水ぶくれまでには至っていないようで、今のところは真っ赤になっているだけだった。

「ごめん、オレ、鍋にお湯を沸かしてて寝こけちゃって..............、空焚きしちゃったんだ。慌てて鍋を掴んだらすっげえ熱くなっててさ。」
 そう言って俺の顔を見ると、眉を下げる。指はそのまま水で冷やしながら、コンロから床に落ちたんだろう鍋をもう片方の手で掴もうとしていた。

「いいって、俺が取るから。そのまま冷やしてろ。」
 冷凍室から氷を鷲づかみにすると、それをビニール袋に入れて口をしっかり輪ゴムで閉じる。それからバンダナでくるむと、それをアツシの火傷の所に括りつけた。
「痛いか?」
「......うん、ちょっと、な。でも、大丈夫だ。」

「水ぶくれにはなっていないから..............、何か塗り薬とか。」
 俺は携帯をチェックすると、火傷の処置の仕方を検索してみた。一応塗り薬で良さそうだが、家には置いていなくて。
「切れ痔の薬ならある......けど。」
 アツシが笑いながら言って、俺は呆れたが、ふざけている場合じゃない。
「ばぁーか!すぐになんか塗った方がいいんだよ。俺買って来るか......。」
「あ、シオンくんの所にないかな?あの子料理するからさ、用意してそうじゃん。」
 アツシの言葉で、もしあったらいいなと思い、俺は205号室へ行くことにする。さっき一緒だったし、家に戻っているのは分かっていたから......。


 階段を2段飛びで駆け降りると、205号室のインターフォンを押す。
「........はい。」
 中から聞こえたのは、あの村上くんの声だった。ちょっとふてぶてしい様な、感情のこもらない返事。

「あの、405号の者ですが、田嶋くんは、........」
 俺は急いで変わってほしくて、村上くんにそう言うと、暫くしてドアがカチャリと開いた。

「あ、すいません。ちょっと火傷をしちゃって、何か塗り薬とか貸してもらえませんか?」
「え?........あ、アツシさんですか?ちょっと待っててください。」
 
 田嶋くんは、俺が来た事でアツシが火傷をしたのだと分かると、すぐに軟膏を出して来てくれた。
 その時、田嶋くんの隣には村上くんも居て、二人に心配をかけてしまったのだと申し訳なく思った。
「ベッタリ塗ったら包んでおくといいですよ。冷やし過ぎると良くないんで。」

「有難う、そうする。」と言うと、「水ぶくれとか、ひどい様なら病院行った方がいいんだけど。」
 気になるのか、自分でも確かめに来そうな感じだったが、俺は申し訳ないので「大丈夫、そこまでじゃないから。」といった。

 今度は階段を駆け上がると、すぐにアツシの元へと向かう。
 キッチンの床に足を投げ出して座り、アツシは片手を庇うようにして俺を待っていた。

「これ塗って、なんかビニールで包んどくか。」
「うん、........悪ぃな。ドジッた。」

 苦笑いをしながら俺に謝るアツシの頭をくしゃりと撫でて、その手を掴むとくるんだ氷の袋を外す。
 ゆっくり火傷の所に薬を塗り込むと、アツシは「イテッ!」と言いながらもニヤケていた。

 - まったくもう、人の気も知らないで..........コイツは.....!

 どんだけ俺がヒヤヒヤしても、こいつはヘラっと笑ってやがる。

 ..........、まあ、そこも可愛いんだけどな。








 
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