『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-21

「------なにやってんの?」

 俺にそう言ったのはアツシで-----。隣にいる田嶋くんも赤い目をして俺を見た。

「あ、ああ、えっと、...................」
「帰ります。すみません、お邪魔しましたッ!」
 俺の腕から慌てて出た彼女は、パンプスをつっかけながら玄関のドアをくぐるとアツシたちの前を横切って走り去った。


「なに?アレ..............、どっかで見たような子。」

 アツシが目で追うと言ったが、俺は何も言わずにリビングへと戻って行った。


「シオンくん入っていいよ。」
「お邪魔します.............。」

 - どうして田嶋くんが一緒なんだよ..............。
 俺の動悸は治まらないまま。それでもリビングへ戻ると、彼女の飲みかけのお茶を下げてキッチンへと行った。

「何話してたの?カノジョ泣いてた?」
 アツシは、俺の後からキッチンに来ると、リビングに居る田嶋くんには聞こえないように小声で聞いてきた。誰が見たって分かりやすい。あんなに目を腫らしていたんじゃ、---と思って、ふと田嶋くんの目も腫れていた事を思い出す。

「田嶋くん、なんかあったのか?」
 俺は自分に振られた質問には応えずに、田嶋くんの事をアツシに聞いた。

「----多分な、っていうかオレの質問は無視かよッ!」
 少々怒り気味で言うアツシを横目で見て、冷蔵庫からペットボトルを取り出すとアツシに渡して俺はキッチンを出る。
 今、この状況ではうまく言葉が整理出来ない。きっと更にアツシを怒らせる事になるのは分かっていた。

「どうもすみません、突然に............。」
 田嶋くんは、和室へ向かう俺に向かって申し訳なさそうに頭を下げたが、それに反応する事も出来ない俺は、軽く会釈だけをすると襖を閉じた。俺には関係ない事だ。田嶋くんに何かあっても、アツシが対処するだろう。そう思って、和室の畳の上に大の字に寝転がると目を閉じた。

 襖の向こうで、二人の話し声がぼそぼそと聞こえだし、俺は目を開けると身体を起こして胡坐をかいた。 
 リビングと続きのような位置のこの部屋では、どうしたって話し声が聞こえてくる。聞いていいものかどうか、そんな事を思って、俺は襖を開けると、アツシたちに向かって「ちょっと出かけてくる。」といった。

「何処へ?」というアツシに、「コンビニ。買いたいものあったの忘れてたから。」とだけ言って玄関へと向かった。




 俺は何をやっているんだろう............。
 彼女を泣かしてしまって、自分の誠意の無さに恥ずかしくなった。自分本位で、彼女も納得した気になっていたんだ。それは階段の所で言われた時にも分かったはずなのに、またもや曖昧な態度で切り抜けたつもりになっていた。
 
 昔からこうだ。アツシが実家を追い出されて俺の所に転がり込んできてから、俺はアツシと居る方が楽で、アイツがゲイバーに通うのさえ良しとしていたぐらい。ダメだと言って嫌われたくなかった。アツシが機嫌よくやっていれば俺も嬉しかったんだ。それが、松原との事で自分の中に親友以上の感情が濃くなると、アイツを追い出した。怖かった。ゲイでもない俺がアツシに触れたいと思っている事が気持ち悪かった。
 でも、自分の気持ちに正直になったら、そんな悩みは一発でどこかへ吹き飛んで、今は俺の心を100パーセント占めているアツシが可愛くてならない。

 それにしても、だ..............。
 やっぱり夏目さんを傷つけてしまった事には違いない訳で。たったの3ヶ月。されど3ヶ月、だよな。

 コンビニへ行ってはみたが、本当は買いたい物なんて特にはない。あの場所にいるのが気まずくて出てきただけで.....。
 仕方なく雑誌に目をやっていると、不意に肩に手を置かれて振り返った。

「こんばんは。買い物ですか?」
「----、あぁ、こんばんは。そうです。」

 目をやった先に居たのは、205号室の吉田という大学生。いかにも遊んでいそうな軽い感じの男で、彼が田嶋くんを心配している事は先日の言動で分かってはいたが、今夜の事は言わずにいた。
「ちょっと待っててくださいよ。一緒に帰りましょう。」
 そう言うと、吉田くんは飲み物を抱えてレジに並ぶ。俺は仕方なくそのまま雑誌を見ながら待った。



「そういえば、食事は田嶋くんが作っているんだよね?!確か..............。」
 コンビニを後にすると、俺は吉田くんに聞いた。
「そうですね、はじめにルームシェアする時にシオンが言ったんですよ。アイツ、デッサンモデルのアルバイトをしているとかで、時間はあるから自分が作るって。その代わり一食200円徴収するんです。」

「え?!200円----、しっかりしてるね。でも、安いのかな?!弁当買っても500円ぐらいはするもんな」
「そうでしょ?!それはそれで助かってるんだけど...........。」
 なんとなく含みを持たせた言い方で気になるが、吉田くんは見た目通り屈託なく俺に話をしてくれる。
「どうしてルームシェアを?昔からの知り合いか何か?」
「いえ、俺と村上は高校が一緒で、上京する時金の事もあって、一緒に部屋を借りる予定ではいたんだけど。シオンは村上の遠い親戚の子で、親が海外に赴任することになって独りになっちゃうからって。村上が居候兼用心棒になったって訳。で、俺も便乗。」
 
 とても分かりやすい彼らの関係を聞いて、俺は納得した。
 村上くんなら用心棒になれる。なんて言ったら申し訳ないが、あの目つきの鋭さはちょっとビビるからな。
「吉田くんと田嶋くんは仲が良くないの?前に喋ってくれないってこぼしてたよな。」
 前に聞いて気になったから、ついでに聞いてしまったが、少し間を開けて吉田くんが話し出した。

「俺が変な事言っちゃったんで.....、」
「変な事?」

「.........、何かと村上の世話を焼きたがるんで、まるで村上のカノジョ気取りだなって.......。」 
「え、...............そんな事を...............?」

「今年の初めくらいに言っちゃって、それまではオレとも普通に喋ってくれてたんですけど。そっからは無視、ですね。まあ、飯は置いておいてくれますけどね。」
「そう、なんだ.................。結構ナイーブなんだね、カレは。」
 それを聞いたら、益々さっきの目を腫らしていた事が気になりだした。
 俺が見た時、田嶋くんは村上くんと仲良さそうに帰って来ていた。その次は今朝、だ。今朝は一緒じゃなかったけど、ひょっとして駅までは一緒に来ていたのか?!その後で村上くんは彼女と待ち合わせで別れた............。
 
 なんとなくぼんやりと、人間関係が見えてくる。拗らせて無けりゃいいが.......................。





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