『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-23


「すみません、僕帰ります。」
 田嶋くんがソファーから腰をあげると言うが、「いいよ、遠慮しなくても。気分が良くなるまで居ればいい。」とアツシが手を掴んで引き留める。

「おい、帰るって言ってんのに...........。」
 俺はちょっとイラついて、アツシに言った。
 俺のいない間にどういう会話がされたのか分からないまま、何故だかアツシは田嶋くんを庇うような言い方をする。何があったんだ?

「拓海は、さっきの女の子の事、いいの?泣いてたみたいだったけど................。」
 田嶋くんの手を引き寄せると、自分の隣に腰掛ける様に促して言うアツシ。俺を見る目つきがちょっと険しいが、今ここでは何も話せない。俺はアツシに返事もしないままキッチンに行くと、料理の続きをし始めた。

 さっき冷蔵庫に戻したキャベツと肉を取り出すと、それをざく切りにしてフライパンを取り出し炒め始める。

 どういう訳か夜になると事件が起きる。まっすぐ帰って来たっていうのに、こんな時間に晩飯を食べる羽目になるとは.............。
 田嶋くんがここに居るという事を吉田くんたちに言わなかったが、今、俺はその事を後悔した。まさか泊っていくなんて事はないよな?!

「食事、どうする?田嶋くんも一緒に食べていくか?」
 一応、自分だけ食べる訳にもいかず、二人に声を掛けるが返事は無かった。

「あの、僕やっぱり帰ります。二人のご飯作ってたの途中になっちゃってるから.........、お邪魔しました。」

 田嶋くんは、そう言って立ち上がると玄関へ戻って行った。俺もアツシも田嶋くんを見送るしかなくて、ドアが閉まる音が耳に入ると二人で顔を見合う。

「飯、食うか。」
 アツシに聞くと、俺はテーブルに皿を並べていった。
「ああ、食うよ。」
 そう言うとご飯を入れてくれる。なんとなく空気が重くて、変な感じ。
 二人で向かい合って、肉野菜炒めを黙々と口へ運ぶ。特に田嶋くんの話をする訳でもなく、俺も彼女の事を話す気にもなれない。


 黙ったまま食事を終えると、なんとなく二人で洗い物をする。俺が洗った傍から、アツシがフキンで拭いていく。これは申し合せなくても自然と身についた動作なんだろう。そのままキッチンを後にすると、「シャワー、してくる。お前、手はどうなんだ?」とアツシに聞いた。

「ああ、まだ痛みはあるけど、大丈夫。ほら---。」
 俺に手をみせて言うと、やっと口角があがって笑みを見せる。
「まだ赤いな。頭洗ってやろうか?」
「いいよ、今日は自分でやる。先入ってて...........。」
「うん、分かった。じゃあな。」
 
 俺は着替えを取りに行くとそれを持って浴室へと行く。
 なんとなく思い空気も仕方がないか-----。俺が、彼女と何を話していたのか気にはなるだろうけど、アツシも深くは聞いてこないし、どうしたものか....................



 シャワーを終えてリビングに戻ると、交代にアツシが浴室へと消えた。
 壁の時計を見れば、もう10時をまわっている。別に遅い時間って訳でもないが、明日は休みだし変なテンションで目が冴えちゃって、彼女の事もあるしきっと寝付けないだろうな、と思った。


 冷蔵庫からビールを取り出すと、缶を開けて一口飲む。
 ビールの苦みが口の中に広がると、ゴクリと飲み込んだが、風呂上がりのいっぱいは本当に美味かった。そのままゴクゴクと飲んでいると、風呂から出てきたアツシが「あー、ひとりだけずるいな~。」と言って俺の飲みかけの缶ビールを横取りする。

「あ、おいッ!もう一本冷蔵庫から出してこいよ。」
 
「やだ、これでいいんだよ。一口欲しいだけだし、拓海は酒が弱いから.....。」
 そう言うとゴクリと喉を鳴らして飲み干した。


「......、ったく。俺のビール.........。」
 
 アツシにビールをとられて、仕方がないので洗面所へ行くと歯を磨く。
 鏡に映った自分の顔を眺めながら、『俺ってヒドイ男』と心の中で呟いてみた。さっきの彼女が言った事.....。俺にどうにかして欲しいという訳じゃ無くて、気持ちを分かってほしかった、と。
 そう言われても、分かったところで結局は彼女を振る事には違いない訳で..............。女ごころって本当に分からない。


「シオンくんさぁ、村上って子が好きみたいだな。自覚してなさそうだったけど.......。」
「え?」
 洗面所に来たアツシが、鏡の中の俺に向かって言ったから驚く。

「シオンくんって、ゲイ?」
 思わず聞いてしまう。
「どうかな、多分どっちもかな?それよりも、彼女を連れ込んだ村上くんに対して、自分がヤキモチを焼いていることに気付いてショックを受けたらしい。」
「あ、彼女と一緒に部屋に居たって言ってたな.....。気づいたらいなくなってたって............。」

 それって、なんとなくわかる様な気がして、俺も経験があった事を思い出した。





ご覧いただき有難うございました

にほんブログ村

人気ブログランキング






スポンサーサイト

コメント

非公開コメント