『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-24


 最初に意識したのがいつだったのかは忘れた。でも、アツシを近くで見ていた俺は、そこに居るのが当たり前のように感じて過ごしてきた。高校生の頃、まだアツシがゲイだなんて知らない俺は、いつも不思議に思っていたんだ。

 アツシは女子にモテるのに、誰かひとりと付き合う気配は無くて、俺や杉本たちと居る方が多かったから、きっと何処かに本命の彼女が居るのだと噂されていた。もちろん俺はそんな娘なんか居ないのを知っているし、だからこそ俺もアツシと一緒に居るのが楽しかったんだ。
 松原が俺に付き合ってほしいと言って来たときも、本当はどうでも良かったんだけど、俺はアツシがどんな反応をするのか気になった。俺が女の子と仲良くして、二人の距離が遠くなって、アツシは悲しむだろうか、なんて事を考えてしまった。
 今思えば、すでに友人の粋を超えて好きになっていたんだ。

 田嶋くんが村上くんに嫉妬したのは、俺がアツシと松原の行為に嫉妬したのと同様の気がする。アツシの触れる相手が自分ではない事が悲しかった。そして、それに気づいた自分にも焦りと嫌悪感が入り混じった感情が湧き出てくると、どうしようもなく辛くなる。俺は自分を頼って来たアツシを追い出してしまったが.....。


「どうするんだろうな、田嶋くん。」
 俺がアツシに言う。洗面所で俺の後ろに回り込むと、腹に腕を回して来て肩越しから鏡の中の俺を見た。その顔はどうしたものかと複雑な表情で。俺は回したアツシの手を掴むと少しだけ微笑む。
「先ずは少し、相手との距離を量るかな。村上くんに気持ちは通じていないんだし。オレが拓海に放り出された時、お前の気持ちにオレは気づけなかった。それでも、どういう訳かまた一緒に暮らしているだろ?!なるようになるさ。」
 アツシはそう言って俺の頬にくちづけをした。

「.............そうだな、今はまだ分からなくても、自然と事は運ぶのかもしれない。俺とお前のように、な。」
 俺は向き直ると、アツシの頬に手を添えてくちづけをした。そっと、そこに存在する事を確認するかのように、何度も啄ばむとギュっと抱きしめる。




 ベッドの上で、アツシが俺に覆いかぶさるとじっと目を見てくる。
「思い出したんだけど、アレ、前に付き合ってた彼女だよね?瞼が腫れてて違う顔に見えたけど、あの黒髪の清楚な感じはあの子だ。なんで泣かした?」

 アツシに聞かれて、少し言葉に詰まった。

 アツシは俺が彼女とすんなり別れたと思っている。いや、俺だってそう思っていたんだから.....。
 こじれている事が分かったらどうなるかな..........。

「分かれてから暫く経つよな?!」
「.............ああ、結構経つと思う.............。」
 アツシがやけに食いついてくるから、俺は内心ビビり始める。

「今更拓海に何の用事?」
「..........、用事っていうか、」
「まさか、元に戻りたいとか、そんな事言ってないよな?!」
「え?........まさか......。」
 そういう捉え方もあるのかと、ちょっとだけギョッとした。でも彼女の口からそんな言葉はなかったように思う。

「じゃあ、なに?」
「................、俺にも分かんない。」
「はあ?!何が分かんないんだよ。だって泣いてたじゃん、そういう事だろ?」
「いや、違うから.............。アツシは気にすんな。」
 俺がアツシの顔を見ると言ったが、アツシの目は 俺の瞳の奥の方を覗き込んでいるようで怖かった。ウソはついていないが、戸惑っていることは事実で、俺自身彼女への接し方が分からなくなっている。

「なんだよ、気にすんなって。アッサリ別れたって言ってただろ?!それならあんな顔して会いに来るか?なんでこの家知ってんだよ。おかしいだろ、ストーカーか?」
 アツシがふてくされたように言って、俺も少々ムッとした。

「ストーカーなんかじゃねえし。未練があるって事だろ、俺に。」
 思わず強い口調で言ってしまう。が、 その時、部屋の外から’ピンポーン’というチャイムの音が聞こえてきた。

「え?.......」
 俺は、一瞬彼女が舞戻って来たのかと思って、心臓がギュっと掴まれるような気がした。

「誰?......」
 アツシも俺の顔を見ると声に出したが、取り敢えずインターフォンに出る事にすると、二人でリビングへと向かう。

 受話器を手に取り「はい。」というと、向こうから聞こえたのはさっき部屋に戻って行った田嶋くんの声だった。
「夜中にすみません。泊めて貰えませんか?お願いします。」

 蚊の鳴くような小さな声だったが、なんだか切なそうな声色で言うから「ちょっと待ってて。今開けるから。」とアツシが言うのを聞いた俺は、一緒に玄関まで行くとドアを開ける。

「どうもすみません。」
 ドアを開けるなり頭を下げた田嶋くんは、やはり目を腫らしていた。

- どうして今日は目を腫らした人ばかり見るんだろう..............

俺は、これから起こる事を想像すると、頭が痛くなってきた。





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