『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-25



 リビングのソファーの上で膝を抱えて座る田嶋くん。
 アツシが快く泊まる事を承諾してしまい、焦った俺は和室の襖を硬く閉じると、そうっと押し入れから布団を取り出して畳の上に敷いた。さっきまで此処で寝ていたような具合に布団をはだけると、わざと枕を横にずらしたりなんかして......。

「あれから部屋に戻って何か言われたの?」と、アツシが田嶋くんに尋ねるが、返事は聞こえてこなかった。
 俺は和室から顔を出すと、「どこで寝る?」と聞いてみた。が、心の中でアツシと一緒に、なんて言葉が出たらどうしようかと思う。

「このソファーでいいです。タオルケットか何か貸して貰ったら.....。」
 田嶋くんがそう言ってホッとしたが、「ダメだよ、こんな所じゃ身体が痛くなる。オレの部屋で寝るといい。」と言う。アツシはどういうつもりでそんな事を言うのか...........。俺の目の前でよく言えるよな...................。

「アツシ、俺がお前のトコ行くから、田嶋くんには俺の布団を使ってもらおう。シーツ取り換えるし.....。」と俺が言えば、「あ、そうだね。」とアツシも納得した。
 ちょっとだけ胸を撫でおろす。

「すみません、シーツなんかそのままでいいですから。僕が使わせてもらって申し訳ないですけど.....、本当に迷惑かけちゃって。」
 田嶋くんが申し訳なさそうに言うが、そもそもここへ来た経緯が分からないけど、今は言いたくないのかと思うと無理に聞く事も出来なくて。

「なら、取り敢えずこの布団で寝てくれ。話は又明日にでも聞くし、話したくないなら聞かないし、田嶋くんに任せる。」
 俺はそう言うと、布団をきちんと整えて和室を出た。使われていなかった布団が、役立つ時が来るなんて変な感じだけど、アツシが体裁を取り繕うのなら付き合うしかない。俺は、別にコイツと付き合っている事がばれてもいいと思っているんだけど、そこはアツシの気持ちに従う。

「じゃあお休み。ゆっくり寝て。」
「おやすみなさい。すみません。」

 俺たちはお休みの言葉を掛けると、田嶋くんが和室に入るのを待った。
 襖が閉まってから、二人でリビングを出ると自分たちの寝室へと戻る。そっとドアを閉めると、アツシと顔を見合って暫く声も出ないまま。二人とも訳が分からず、この状況を整理しようと思っても、混乱するばかりだった。

 ベッドに入ると、俺たちは無言のまま目を閉じた。
 何か話そうにも、和室に田嶋くんがいるというだけで違和感を覚えてしまう。
 彼の目には入らなくても、男同士でダブルベッドに寝ているという事は知られたくないのか、アツシは俺に触れる事もなくおとなしく寝てしまう。

 どのみち、さっきまでちょっとした言い合いみたいになっていたし、今日の所は何も語らず寝てしまった方がいいのかも、と思った。


 翌朝、休みだというのにいつもの時間に目が覚めた俺は、洗面所で顔を洗うとリビングへ行った。すると、和室の襖は開けられていて、中で眠る田嶋くんの姿が目に入る。
 スウスウと寝息を立てるカレに近付いて行けば、暑いのか掛け布団はすっかり足の間に挟まれており、身体が隠れることなく腹が出た状態で眠っていた。細い手足は頼りなげで、俺みたいなデカイ男からすると庇護欲を掻き立てられるのかもしれない。が、やはり俺にとってはただの男の子だ。アツシのような目線で男を見る事はない。

 襖の影からじっと伺っていると、突然スコーンツと後頭部を何かで叩かれてビックリする。
「イッテーな、なに?」と振り向くと、そこにはアツシの顔があった。

「ヤラシイな~拓海。いつからそういう趣味になったんだよ。」とアツシが言えば、その声で田嶋くんの身体がピクリと動いて目を覚ました。じっと辺りを見廻してから俺とアツシに目をやる。

「あ、おはよう。」と俺が声を掛ければ「おはようございます。」と微笑む。
「よく眠れた?」
 アツシが田嶋くんに聞くと、「はい、なんだかぐっすり眠っちゃいました。有難うございます。」という。

「オレは今日仕事だから、出掛けなくちゃいけないんだけど、拓海は休みだからゆっくりして行くといい。どうせ出掛ける用事は無いんだしな、話し聞いてもらえば?」
 アツシは俺に田嶋くんの話し相手になれとばかりに言ってくるが、そんな事を言われても困ってしまう。ゲイだかバイだか分からないが、実際の所俺にはよく分からないんだから.....。

「すみません、変な相談するかもしれませんが、気を悪くしないで下さいね?」
 田嶋くんは恥ずかしそうに言うと、俺を見た。その瞳が揺れていて、俺もちょっと変な気持ちになる。村上くんや吉田くんはこんな顔をする田嶋くんを知っているんだろうか。

 アツシは着替えるとすぐに出かけて行き、部屋には俺と田嶋くんの二人きりになった。
 朝食を作らせて欲しいというのでその言葉に甘えると、卵と牛乳を溶いた液に浸した食パンをフライパンで焼いたフレンチトーストが出来上がる。バターのいい香りとコーヒーの香りに癒されて、休日の朝を満喫した俺。

「拓海さんは、アツシさんと職種が違うから、休日とか一緒に取れないんですか?」
 そう聞かれ、「ほとんど合わないからなぁ、あっちはサービス業だから世間一般の休日が忙しいんだ。俺は土日祝日休みだしさ。」と答えた。だからこそ、こうやって一緒に暮らす事に意味がある。足りない時間を補うように、二人でくっついていられる時間が必要だった。

「田嶋くん、気を悪くしないで欲しいんだけど..............、キミってゲイ、なのか?」
「え?」

 テーブルに乗せた指がピクリと動くと、顔をあげて俺を見た。少しだけ下がった眉がカレに困惑の表情を作らせる。





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