『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-26


 唐突な質問をしてしまったと思うが、その答えを聞かないと先には進めない。もちろん俺が聞いたからと言って良いアドバイスが出来る訳でもないが....。

「それは..........、最近になって正直そうなんじゃないかって、思うようになりました。僕は身体も華奢だし、今まで女の子と付き合っても、結局はみんな男らしい人の方へ行ってしまう。それに.........、」
 そこまで言うと口を閉ざす。

「............、ごめん。こんな面識も浅い俺なんかに話す内容じゃないよな。」
 田嶋くんの苦しそうな表情を見ると、つい謝りたくなってしまった。俺はカウンセラーじゃないし、こんな深い所までえぐる様な事を聞いてはいけない気もする。アツシが告白してくれた状況とは違うんだし.....。

「いえ、謝るのは僕の方です。迷惑かけて、都合の悪い事は言いたくないなんて、自分勝手で.......すみません。」
「いいんだ、こういう話はそう簡単に口に出来る事じゃないし、俺は田嶋くんがゲイだろうと、その事で人格を否定するつもりもない。君はキミのまま、そのままでいいと思うよ。」

 自分で話しておいてなんだが、俺は昔アツシに言った言葉をそのまま田嶋くんに言っている気がした。
 俺にとってのアツシは、アツシのままだ。

「僕は.....................、多分、可愛がられたいんです。頼れる男の人に......。」
「..............、そ、うか。」

「コウくん、って、村上さんの事ですけど、遠い親戚で小学生の頃に2~3回会ったことがあるだけだったんだけど、凄く大きくて静かで大人びて見えた。周りの子供の中でも一番小さくてひ弱な僕を庇ってくれて、その時に大好きになったんです。」
「ああ、彼はそんな感じだろうね。今はちょっと怖いぐらいだけどさ。」
 俺が村上くんの印象を言うと、フフっと笑う田嶋くんだったが、「目つきは、昔も変わっていませんよ。」といった。
 小学生があんな鋭い目をしていたのかと驚く。でも、だからこそ、優しさとのギャップがあっていいのかもな。

「大学生になったコウくんが家へ来る事になって、僕はすごく嬉しかったんです。だから、ついまとわりついてしまった。」
「それで、吉田くんにからかわれた?!」
「あ、...........そうなんですけど、それ聞いたんですか?」
「............うん、吉田くんが自分とは口をきいてくれないって寂しがってた。」
 俺はコンビニの帰りに聞いた事を田嶋くんに話した。俺の中でも、やっと彼らのいきさつが繋がってスッキリしてくると、田嶋くんの気持ちも分かる様な気がした。

「吉田くんに言われて初めて自分の気持ちに気付いたんじゃないか?村上くんへの好きの度合いが違うって.....。」
「.......その通りです。実は今年の初めに気付いて、でもまだ半信半疑だった。女の子とも付き合えてはいたから、そういうんじゃないって。」
 田嶋くんは自分の手をギュっと握りしめると、唇の端を噛み締める。彼の中の迷いがそうさせるのか、それでも一度、頭をフルフルと回すと、「彼女がいるのは聞いてて知っていたんだけど、昨日の朝初めて一緒に居る所を見たら.............」と眉根を寄せた。

「確か家にも来たんだっけ?」  
 昨日の事を聞いてみる俺に、田嶋くんは少し泣きそうな顔になると言った。
「はい、一緒に帰って来て...............、部屋からじゃれ合うみたいな彼女の声が聞こえたら、僕、飛び出しちゃってたんです。」

「階段の踊り場に居る所をアツシさんに呼び止められて、お邪魔したって訳ですけど.....。」
「ああ、...............あの時、ね。」
 また昨日の事が蘇ると、一緒に彼女の顔も頭に浮かんでくる。俺は人の話を聞いている場合じゃないような気もするが、玄関先でのあの光景は、まるで芝居じみたシーンの様で、なんともバツが悪い。

「で、一旦戻ったのに、どうして又出てきちゃったんだ?」
「.......それは、コウくんが彼女を泊めるって言ったから.............。」
 
 - ああ、そりゃあキツイな。
 もし仮に、アツシが男を部屋に引き釣り込んでたら、俺だって同じ家には居たくないだろう。自分の気持ちに気付いてからは、ミサキとの仲をなんとも言えない気持ちで見てきた。でも、アツシはフラフラと浮気ばかりをしていたから、俺の嫉妬心がミサキに向くことはなかったけど。あの頃は本当に変な感覚だったな。

「僕のこんな気持ちは可笑しいんでしょうね。コウくんを好きだと思う気持ちがどんどん歪んでいく。バンド仲間の人にさえ嫉妬を覚えてしまって、スタジオで泊まりになった時には、朝ご飯を届けに行ったりなんかして....。」

「ああ、それで反対方向の電車に乗ったのか...。朝飯を届けてくれるのは嬉しいけどな。」
 俺が頭を掻きながら言うと、「はい、コウくんもそれは喜んでくれて。だから僕はどんどん自分の気持ちが抑えられなくなっちゃったんです。」と、田嶋くんは苦笑いをした。

 

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