『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-28


 さっきから変な感じがするのは俺だけだろうか。
 昼ご飯を何にしようかと、いろんな店のメニューを見て歩くが、俺と田嶋くんの後ろで吉田くんの足が進まない。振り返ると、慌てて追いつく感じで、ぼんやりしているようにも見えた。

「ここにしますか?席も空いていそうだし、本格的なオムレツっていうのを食べてみたいんで。」
 田嶋くんはオムレツの専門店の前で立ち止まると、俺たちに振り向いていう。なんだか子供みたいだけど、一番の年下だし、彼の食べたい物に合わせようと思った。
「いいよ、......吉田くんもオムレツでいい?」
「あ、はい。オレは何でも食いますから。」
 そういう吉田くんの表情が戻っていたから、俺は少しだけ安心する。俺が一緒で緊張しているのかもしれない。それに田嶋くんとも暫く口をきかない状態だったし、ぎこちないのはそのせいだろう。


「うわぁ、フワッフワですねー。コレ、中にチーズが入っていてすごーく伸びる。」
 田嶋くんは、チーズ入りのオムレツにオリジナルのパンとジャガイモが丸ごと乗ったセットを頼むと、テーブルに置かれるなりフォークで掬った。中からは、トロリと溶けたチーズが糸を引くように伸びると、掬ったフォークの先から零れ落ちる。

 俺と吉田くんは、オムレツとチキンのグリルが乗ったプレートを目の前にしてゴクリと唾を飲む。ハーブのいい香りがチキンから立ち込めると、ナイフでそれを切り分けて口へと運んだ。
「美味い。.......チキンと言えば唐揚げしか食ってないからなぁ、こういうのもたまにはいいもんだな。」
「ホント、美味いっすね。」
 俺も吉田くんも自然と笑みがこぼれ落ちて、食べる事に夢中になるとさっきの違和感も忘れてしまっていた。


「ところで、アツシさんと拓海さんは昔っからの知り合いでしたよね?!何でも分かりあえる友達っていいですね。」 
 吉田くんはひと通り食べ終わると、向かいの俺に向かって言った。

「あ~、まあな。でも、すべてが分かっている訳じゃ無いし、知らない事もあると思うよ。考え方とか、そこはお互いに譲れない部分もあるしな。」
 俺がそう言うと、「僕から見ても、お二人は阿吽の呼吸っていうか、互いに察してる部分があるように思えますけど。」と、田嶋くん。
「そうかな~、俺はちょっと潔癖入ってるんだけど、アツシは気にしないトコ多くてさぁ、たまにイラッとくることもあるよ?!」
 二人にそんな事を言ってしまって、今更ながらに俺たちの性格が案外対照的なのだと知る。最近の俺は、アツシが可愛く思えて全てを受け入れていたから、こうやって冷めた目で見る事も大事だと思った。

「アツシさんの事で知らない事もあるって言うんですか?マジで?」
「ああ、だって四六時中一緒に居る訳じゃ無いし、プライベートな部分は、.............な?!」
 吉田くんにそう言って、俺は珈琲を口にすると静かに微笑んだ。
 プライベート、と言ったのは、アツシが隠したがっている自分の性癖の部分の事で、俺の口からは言えない事もあると分からせる為。もちろん、吉田くんたちには話すつもりは無いが。

「キミ等も、一年以上一緒に暮らしているんだし、分かりあえる部分も増えたんじゃないか?」
 田嶋くんにも聞いてみるが、「ま、ぁ。分かった事は.....ありますね。」と、若干小さな声で言う。

「オレは、村上とは高校からの付き合いだけど、未だに分からない事だらけですよ。特に、バンドを組んでからのアイツは昔より嫌な男になったと思う。」
 吉田くんがそんな事を言うから驚く。てっきり昔の俺たちぐらいには仲がいいと思っていたから。

「コウくんは、昔と一緒で優しいじゃん。嫌な男だなんて.....、どうしてそんな事言うんですか!」
 田嶋くんが、噛みつくように吉田くんを見て言った。そんな二人を前にして、俺はちょっと雲行きが怪しくなってやしないかと焦る。
 村上くんの事となると、田嶋くんは必死になるところがあって、好きな人を悪く言われた様な気になったのかもしれない。


「昔は、女を連れ込んだりしなかった。一応、オレやシオンが居るって事は頭にあったはずだ。しかも間借りしている家で、堂々と連れ込むとか、考えられねぇよ。」
 吉田くんは、一見茶髪でチャラそうに見えるのに、意外と常識人なんだと分かって驚いた。しかも、田嶋くんに対して何気に庇っているのだろうか、彼女の事で心を痛めたのを知っているかの様だった。

「まあ、人も色々変わるさ。長く付き合ってりゃそれだけ変化も大きいって。」
 俺はなんとなくまとめようとして、二人に言うと「そろそろ出るか?」と聞く。
「はい、ご馳走様でした。」
「ご馳走様。」

 俺たちは、レジで会計を済ませると、また3人でエスカレータ―に乗り下の階へと降りて行く。


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