『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-29

「吉田くんは何も買わなくて良かった?別の店に寄ってみようか?」
 エスカレーターで降りながら、後ろに立つ吉田くんに振り返って聞いてみる。

「いえ、大丈夫です、今日の所は下見って事で。オレはアツシさんに会えたんで、それだけでも良かったんですから。」
 そう言うと僅かに口角をあげて笑みを見せた。

「アツシは人当たりがいいし、田嶋くんともすっかり意気投合したみたいで、吉田くんとも仲良くなれると思うからよろしくな。」
 俺が二人に言えば、「僕はアツシさんの事気に入ってますよ。なんていうか、年上だけど気を使わなくてもいいっていうか.....。楽しい人ですよね。」と田嶋くんが褒める。気を使わないっていうのが誉め言葉かどうかは分からないが、誰にでも好かれるアイツのいい処だと思う。

「オレは、........まあ、いい人そうだってのは分かりました。あと、カッコイイっすよね。結構モテそう。」

「モテるかどうかは分かんないけどな。カッコイイなんて言われたの知ったら、きっと鼻高々でいい気になっちゃうよ、アイツ単純だから。」
 俺は、アツシの顔を思い浮かべると笑えて来たが、一応今夜帰ってきたら報告してやろうと思った。

「俺はもう家に戻っちゃうけど、キミ等何処かに寄るんならここで別れるか?」
「ん~、どうしようかな..........。もう服は買っちゃったし、僕は拓海さんと一緒に帰ろうかな。吉田さんは?」
 田嶋くんの質問に、少しだけ頭をあげて考えた吉田くん。空間に目を泳がせて、何処かを見ると「ちょっと寄るとこありました。オレは此処で、失礼します。」と言った。

「うん、分かった。じゃあな。」
「はい、今日はオレまで奢ってもらってすいませんでした。」
 俺に頭を下げると、吉田くんは入口の所から離れて奥のエレベーターの方へと歩いて行く。

「何か買うもの思い出したのかな?」
 田嶋くんはカレの後ろ姿を見ながら言った。
「吉田くんもオシャレには気を使う感じだね。」
 俺は、駅ビルの入り口を抜けながら田嶋くんに言うが、「そうですかね?!」と、あまり興味のない返事が戻って来る。田嶋くんの興味は、すべて村上くんへと向けられているようで、なかなか一途な性格なんだと思った。
 同時に、これじゃあ村上くんの彼女の存在を気に病んでしまうのではないかと心配をする。諦めた方がいいなんて言葉は、俺には言えないし.........。ましてや、ガンバレなんて事も軽くは言えない。

「確かに、吉田さんは今まで一度も女の子を連れてきた事なんかないですねぇ。だから余計にコウくんに批判的なんだ。」
 雑踏の中を並んで歩きながら、不意に思い出したのか田嶋くんが言い出した。
 さっき村上くんの事を言われて怒っていたから、根に持っているのか......。

「吉田くんって、どっちかというと遊んでる風だもんな。」
 俺はニヤけると、隣の田嶋くんの顔を見たが、彼はキョトンとした目で俺を見返した。
「あの人は謎の多い人なんです。と、コウくんが言ってました。」
 それだけを言うと、まっすぐ来た道を戻っていく。




 
 あっという間に買い物と昼食を済ませた俺と田嶋くんは、マンション迄の道すがら、住人の話やら学校の話なんかをして賑やかに歩いて来たが、マンションの前まで来ると急に黙りこんだ。
「大丈夫か?.........その、村上くんの顔、ちゃんと見られる?」
 田嶋くんに聞けば、「.............多分。今朝、話を聞いてもらって気持ちが楽になったし、僕が一人でふてくされてても仕方がないんで。それに、コウくんはどっちにしたって同性を恋愛の対象にはしなさそうです。」と、俯き加減に言う。

 そこは慰めてやりたいところだが、俺のアドバイスなんて何の役にも立たないような気がする。本当はアツシの方が的確なアドバイスをしてやれるだろうに.....。自分の性癖を暴露するような事はしなさそうで。まだまだ時間のかかる問題だと思った。
「じゃあ、ここで。また遊びに来るといいよ。」
「はい、有難うございます。でも、夜中に行くのは止めておきますね。」
 そう言ってニッコリと笑うと、階段で上の階へと上がって行った。



 昨日からのゴタゴタは、片付いたような途中の様な.....。
 よく分からないまま、一日が過ぎようとしている。

 アツシの帰りを待って、俺が晩ご飯の用意をすれば、ガチャリと玄関のドアが開いて「ただいま.....。」と言うアツシの声。
 少し疲れたような声に聞こえて、「おかえり、忙しかっただろ。」と聞いてやる。

「うん、昼はごめんな。せっかく来てくれたのに一緒にご飯いけなくて、さ。」
「いいって、ぞろぞろ押しかけちゃって、こっちこそ悪かった。あ、でも吉田くんがお前の事カッコいいって褒めてたぞ。」
 アツシが喜ぶかと思って、吉田くんの言葉を告げたが、「あ、そう。」というとそのまま自分の部屋へと消えて行った。

 相当忙しかったのかな。いくら接客が好きでも、一日中立ち仕事だし、笑顔を振りまかなきゃならないし、結構大変な仕事だ。俺に出来るのは晩飯の用意と寝る前のスキンシップぐらいだ。そう思うと、テーブルに皿を並べ始める。






 

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