『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-30.


 いつもなら、少々疲れていても食事の時にはしゃべってくれるアツシが、今夜にかぎっては寡黙な男になっている。

「美味いか?」
 俺が、目の前の野菜炒めを指して聞く。
「ん?..........ああ、美味い、っていうか別にいつもと変わんないよ。大抵が炒める料理だしさぁ、味付けはその都度違うけど.....。拓海の料理は美味いよ、オレは好きだし。」
 そんな事をいうアツシだったが、無理に合わせてくれているようで、なんとなく変だと感じた。

「あれから田嶋くんと話してたんだけどさ、村上くんて子の事が昔から好きだったらしい。ハッキリ気づいたのは、吉田くんの言葉で、だったらしいんだけどな。自覚したらショックを受けたみたい。アツシはどうだった?」
 昔の事だけど、俺の知らない所でアツシは悩んでいた。自分は、俺や杉本たちとは違うって事を言い出せずに、高校生の時期を過ごしてきたんだ。

「どうもこうも、そんなの人それぞれに感じ方も違うんだ。オレに聞くな。」

「え、......田嶋くんの事だよ?!お前、俺に相談してみろって振っといて、今更彼の相談には乗りたくないっての?薄情だなぁ.....。」
 今朝と言う事が違っているアツシに、俺は違和感を覚えて’薄情’と言ってしまった。

「ごめん、今朝はそんな事を言った気がするけど、シオンくんは憧れと愛情の区別がついていないと思う。その内冷めると思うよ。」
「えらくドライな言い方だな。お前があんなに気に留めてた子が、悩みを抱えて頼って来たのに.....。なんだよ、疲れてんのか?」

 ちょっと投げやりな言い方をするアツシに、俺は気になって聞いた。売り上げの事とか、頭の痛い事はあるだろうし、俺だって田嶋くんの悩みを聞いている場合じゃない。それでも、昨夜のように切羽詰まった顔をされたら、情が湧く。

「ご馳走様。シャワーしたら今日はもう寝るから。シオンくんの事は今度話を聞く。」
 アツシは自分の食器を片付けると、キッチンへと持って行った。
「おい、店でなんかあったのか?」と、声を掛けるが、「別に気にする事じゃない。シオンくんの相談に乗ってやれなんて拓海に振って悪かったな。分かりっこないのにさ、お前には.....。」

「はあ?」
 俺はアツシの背中に問いかける。どういう意味だよ、分かりっこないって.........。俺がゲイじゃないからか?

「なんだよ!やけに機嫌が悪いじゃないか。マジでなんかやらかしたな、お前。」
 廊下を歩くアツシに言葉を投げるが、返事はなかった。

 昨日の彼女との事で、俺とアツシには溝が出来たように思う。でも、こんなに尾を引く事でもないだろう。彼女はあれで気が済んだのかもしれないし、もしそうでなくても、俺が彼女の元へ戻る可能性はゼロだ。
 なのに、アツシは根に持つっていうのか.....?



 俺が洗い物を済ませた頃、アツシもシャワーを終えてリビングにやって来た。大きめのTシャツを一枚着ただけで、下はボクサーパンツ姿。髪の毛は半分乾かした様で、くせ毛が尚更ヒドイ。
「そういえば、手の火傷はどうだ?」俺がリビングのアツシに聞くと、「もう平気。あー、そうだった、薬を買って返すの忘れてただろ?」と聞く。

「あ、忘れてた。今日出たついでに買って返しておけば良かったのに...。まあ、明日でもいいか。」
 わざわざ205号室を訪ねるのも気が引けると思ったが、ちゃんと返しておかないと俺の気持ちも落ち着かない。

「オレが返しに行くから、拓海はいいよ。シオンくんの事も、オレが話しを聞いてやるから。.......拓海は205号室の人と関わらなくていい。」
 リビングに置いてあった雑誌を手に取ると、アツシが俺に言った。突然そんな事を言いだすから、俺もビックリする。

「アツシが対処してくれるって事?」
「ああ、オレがやる。拓海は未練がましい女の子をなんとかしろ。」

「...............ああ、分かってる。」

 やっぱり、アツシは彼女との事を根に持っている。その代わり、自分が205号室のもめ事に当たるって事か.........。
「シャワー浴びてくる。」
 俺はバスタオルを片手に持つと、寝室へと戻るアツシの後ろ姿をじっと見ていた。







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