『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-33


 ------- パラパラッ、 ------ バサッ 
 頭の近くで何かを投げつける音がして、ビクッとした俺は慌てて目を開けた。

「.......アツシ...........?」

 見上げると、ソファーで横になって寝転ぶ俺を見下ろす様にアツシが立っている。
 その視線が床に落とされたので、俺もそれを辿って床に目をやると.....。
 コンビニで買ったグラビア雑誌が床に落ちていて、丁度水着姿の放漫な胸を晒した女の子のページがペラリとめくれて開いていた。

「お、お帰り。うたた寝してたよ.....。」 
 上体を起こすと、ソファーに座り直した俺に、「はあ~ッ」と深いため息をつくアツシ。

「ただいま。疲れて帰って来て、コレ見たら更に疲れた。」
 そう言うと、さっさと向きを変えて自分の部屋に行ってしまった。

----------- え?なに?------------

 一体何を言われたのか分からない俺は、床に落ちた雑誌を拾い上げると和室に行き、本棚の上に置いた。
 昨日からの不機嫌は治っていない様で、相当嫌な事でもあったんだろうかと心配になるが、俺も仕事ではイライラする事もあるし、知らないうちにアツシにも不機嫌な顔をしているのかもしれない。
 こんな時は、障らぬ神に祟りなし、だ。



「あ、.......梨買ってきたんだ?!」
 冷蔵庫を開けて、野菜室に梨が入っているのを見たアツシが聞いてくる。
「四つも多くねぇ?二人で食べんのに、毎日食わなきゃならないじゃん。」
 少し機嫌が直ったのか、俺の顔を見て笑った。

「それ、夕方に205号の吉田くんがくれたんだ。実家から送ってきたからって言って。実家、福島だってさ。」
 俺は、冷蔵庫の前に居るアツシを横切ろうとして言ったが、急に腕をグイッと掴まれてアツシの方を見ると、思いっきり眉根にシワを寄せて俺の顔を見ている。さっきの笑顔は何処へ行った?
 その手に力が入ってくるから、「痛いなぁ、なんだよ。」と振り解いた。

「アイツ、来たのか?」
「うん、ここにも上がったけど、なんか部屋の広さが違うとかって言ってまじまじと見られた。」
「------------、なんで、」
「ん?.....」
「なんで部屋に入れたんだよ!」
「ん?.....」
 何故かアツシは激怒している。冷蔵庫を勢いよく閉めると、俺の腕を掴んでリビングのソファーの所まで連れて行き座らせた。

「............なんだよ?!どうかした?」
 訳が分からない俺はアツシの顔を伺い見るが、唇をキュッと結んだまま言葉が出て来ない。


「...........かかわるなって言ったろ?!」
 暫くしてそう言われ、確かに205号の事はアツシが引き受けるって言葉を思い出したが、今回は相談でも何でもなくて、ただ頂き物をしただけだ。そんなに目くじら立てる事なのかと、俺の方が驚いてしまう。

「アイツ、拓海に何か言った?」
「..........え?........特には何も。ただ、帰り際に田嶋くんの相談が何だったのかを聞いただけで......、モチロン俺は話さなかったけど。」
「そうか、.......ならいい。」
 アツシはそれだけを言うと、今度は浴室へと向かった。
 残された俺は、ソファーの上で呆然とするばかりで。突然怒られたみたいになって、梨をもらったのがそんなにいけない事だったのか?




 アツシがシャワーを浴びている間に洗面所で歯磨きを済ませると、「先、寝るからなー。」と声を掛けた。
 返事はないが、そのまま寝室へ行くとアラームをセットしてベッドに横たわる。

 うたた寝をしていたせいか、あまり眠気も感じられず、仕方がないからアツシの読んでいた雑誌を手に取って見ていた。秋物のファッションに身を包んだ女の子が、可愛い顔で微笑んでいる女性向けのファッション誌。
 俺の仕事も化粧品や美容関係の商品を取り扱っているから、こういう雑誌を目にする事は多い。取引先の関係者が女性の時もあるし、自分としては素都なくこなしているつもり。たまにイケメンだと褒められればうれしくもなった。

 - さっきの雑誌。グラビアは、もろに性の対象として作られているからな~
 あれは、アツシには目の毒だったのか?女に興味は無くても、仕事相手は女性も多いってのに.......。
 

 ドアが開いて、アツシが頭を拭きながら入って来るから「ちゃんと乾かせよ。風邪ひくぞ。」と言ってやるが、「いい、後で又入るし。」と言ってベッドに膝を乗せると、俺の膝の間を割って入り、枕を背もたれにしていた俺の太ももを掴むとおもいきり引っ張り寄せた。
 反動で、俺の身体はズルリとアツシの下に行き、大きく広げた足の間で持っていたファッション誌は取り上げられ、床に放り投げられた。

「.........アツ、」と言ったところで口を手で塞がれて、そのまま目だけをパチクリとしながら瞬きをする。

「吉田はマズイ。」

「..........は?」

「アイツは絶対家に入れんなよ。それと、オレとの事を聞かれても、中学からの親しい友人とだけ言っておけ。それ以外は何も言うな。」

「...............どういう事?吉田くんが何かしたのか?っていうか、アイツの事知ってたんだ?!」
 あまりに唐突な事を言われ、俺はアツシが塞いだ手を跳ね除けると聞いたが、ムッとした顔で見ただけで、何も言おうとしない。

 それどころか、俺の顔に近付くと頬を掴んで唇を重ねてくる。
 クイッと顎を上げられて、半ば強引に重なった唇の奥で、俺の咥内を激しく搔き乱すアツシの舌が熱く感じられた。

 胸の奥で不穏な感情が芽生えてくるが、それでも、俺に向けられた欲情を受け入れないという選択肢はない。
 俺は、アツシの下でいつの間にか背中に腕を回すと、激しく身体を抱き寄せていた。





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