『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-39

「ちょっと待ってて、今布団を敷くから。」
 そう言って、アツシは俺と吉田くんをリビングに残すと和室に行き、押し入れを開けて布団を敷きだした。

「...........起き上がる時大変じゃない?ベッドの方がいいと思うけど。」
 吉田くんはそう言うが、寝室を見せる事はアツシが許さない。だからこそ、和室に布団を敷いているんだ。

「大丈夫だ、そこまでじゃないから。ホント、心配かけて悪かったけど、吉田くんもう帰ってもらってもいいよ?!」
 再度お礼を言って戻るように促すが、なかなか出て行く気配がない。

「拓海がそう言っているんだ。ホント、帰ってくれていいから。」
 アツシがぶっきらぼうに言うから、俺はヒヤヒヤする。親切でここまで手を貸してくれたっていうのに...........。

 布団を敷き終って戻って来たアツシを吉田くんはじっと見ている。その目がちょっと拗ねているようで、気になった。
- あれ?ひょっとしてこの吉田くんって、アツシの事が好きなのか?

 何故そう思ったのか自分でも分からないが、直感とでも言うんだろうか............。


「.............ったく、二人してオレを邪魔者扱いだ。そんなに早く二人きりになりたいんすかねぇ。」

「おいッ、バカ言ってんな!」
 アツシの言葉使いは、ちょっと知り合いって感じじゃない。もっと深く吉田くんの事を知り尽くしているような..........。

「あの、吉田くんはいつからアツシと知り合いなの?なんか随分前から知っているような雰囲気だよねぇ。」
 二人の会話を聞いて俺が言うと、吉田くんは驚いたような顔でこちらに目をやった。まるで知らない事の方が可笑しいとでも言いたげに.....。

「拓海、スーツ脱げるか?ハンガーに掛けておくから着替えろよ。」
 俺の質問はスルーか?アツシは吉田くんの事も眼中にない様な感じで俺に着替えろという。

「脱ぐけど、俺は吉田くんに質問しているんだ。............どうなんだよ、いつ知り合った?」

 はぁ~っと深いため息をつくと、吉田くんの口から出た言葉は、「それって、ヤキモチですか?オレとアツシさんの事が気になるとか....?」口角を片方だけあげて言う。

「おいっ、拓海は違うって言っただろ?変な事言うなよな。早く帰れ、帰って寝ろ!」
 キツイ言い方をするアツシに、尚更違和感を覚える。

「俺に隠し事?」
 ムッとしてアツシに言ったが、ちらりと顔を見ただけで、また逸らす。

「アツシさんって、ゲイなんですよ?!知らなかったんですか?」
「え?..........それは................。」

 どうして吉田くんが知っているんだ?! アツシはそんな事をペラペラとしゃべる人間じゃない。
 俺は返答に困った。アツシは周りの人から、俺がホモだと言われるのが嫌みたいだった。それでも、吉田くんが知っているんなら別に隠す必要が無いんじゃないのか、と思う。

「もしかして、吉田くん..........も?」
 恐るおそる聞いてみると、「拓海!もう止めろ。」とアツシが怒った。

 それを聞いた吉田くんは、よく映画やテレビで見かけるような、首を竦めて肩を上げたポーズをする。
「アッタリ―ッ。.......去年の冬、ゲイバーで知り合って何度か一緒に飲みましたよね?」
 アツシの顔を覗くように見ながら言う。ちょっと楽しんでいるかの様な表情で、茶色い前髪を指で掬いあげながら「オレがアツシさんをナンパしたんです。」という。

「は?..........、去年、................」

 その頃、アツシとミサキは一緒に暮らしていて、頻繁にゲイバーへ通っているアツシの事で、ミサキは愚痴をこぼしていた。現に朝帰りを繰り返していたアツシ。相手がこの吉田くん...............?!

「あ、ちょっと待て、言っとくけどオレはコイツとは寝てないからな。」
 俺の想像が伝わったのか、焦ったアツシがそう言った。

「................そう、.............か?」

 疑問が残る。ヤリチンだったアツシの事だ、何度も飲んだって言うんなら...........。
 
「残念ながら、その通りです。アツシさんは自分より大きな男とはシないって言って、シオンみたいな華奢な男ばかりに声を掛けてた。」
 吉田くんは恨めしそうにアツシを見た。やはり好意を持っていたんだ...............。なのに振り向いてもらえなくて。

「自分より大きな男と暮らしているじゃないっすか!ウソつきだよなぁ。オレの誘いは逃げまくったくせに、ひどいよねぇ........。」

 吉田くんの言葉は、俺の中で目を瞑って見ない事にしていた事実を突きつけてくる。アツシの好みはやっぱり華奢な男の子。そう、シオンくんなんかがドンピシャだ。

「うるさいなぁ、拓海はノンケなんだよ。中学からのダチってだけだと言ったろ?!変な事植え付けてんじゃないよ。」
 アツシは吉田くんを睨むと言ったが、あくまでも俺がノンケだという事を知らしめたいようだ。本当に徹底してるな..............。
 
「拓海さんがただの友達って言うんなら、オレと付き合いましょうよ。丁度同じマンションだし。」
 尚もアツシを口説いている。
 この男は、全く...................。俺に懐いているのかと思ったら、アツシと俺の仲を探っていたのか?
 で、俺がアツシのオトコじゃなきゃ、自分と付き合えると.........?!

「あのさ、ごめん。俺とアツシは付き合っているから、吉田くんの出番は無い。」
 すっぱりと言ってやった。
 
「え?...............ホントに?」
 疑り深い吉田くんに、アツシが「本当だよ。だから帰って...............。」と言って、俺の身体を支えながら布団の上まで来る。





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