『寄り道しないで帰ろうよ。』 205号室-40 最終話

 
 アツシは布団に俺を座らせて、Yシャツを脱がすとTシャツを被せて着せてくれる。そして寝転んだ俺のスラックスを脱がした後でスウェットパンツを穿かせた。
 吉田くんが見守る中で、俺は照れくさくて内心ではまいっていた。早く帰ればいいものを俺たちのやり取りを見ているし、それでいて何も言おうとしない。一体何がしたいんだ?

「なんだか、アツシさんの印象が違いすぎるんすけど。なに甲斐甲斐しく嫁みたいな事してるんすか?」

「うるさい!嫁じゃねぇし。今日だけだよ、腰痛めてるんだから。」
 
 アツシは、俺と付き合っているといったわりに、距離をおいていると言いたいんだろうか。それともタチとしてのプライドか...........。
 俺を布団に横たわらせて、自分は立ち上がるとリビングへと戻ってしまう。

「拓海さんってノンケだったんでしょ?どうしてアツシさんと付き合えているんです?考えられない、絶対女にモテそうだもん。」
 まだそんな事を言いながら帰ろうとしない吉田くんに、アツシは業を煮やして「さっきから煩いんだよ!オレは拓海がずっと好きだったの!!だからコイツを誘惑した。分かったら帰れッ。お前と付き合う気はさらさらないんだからな。」と怒鳴る。

「................チッ、拓海さんがアツシさんの事知らないままだったら、オレ、言いつけるって脅してでも付き合ってもらうつもりだったのに。残念だなー、こんなにアッサリ認めちゃって、拓海さんだって自分がホモだって知られたくないのかと思ってたのに..........。」

 残念そうな吉田くんの声しか俺には分からないけど、きっとその顔は眉を八の字に下げている事だろうと思った。

「悪かったな、俺もアツシの事は昔から好きだったんだ。アツシがゲイだって告白する前から、ずっと好きだった。吉田くんはほんの数ヶ月だろ?俺はもう数えきれないぐらい昔からだ。分が悪かったな、おやすみ。」

 和室の布団の上で大きな声で言うと、自分でも不思議なくらいスッキリとした。
 アツシがどんな顔で俺の言葉を聞いているか見えないのが残念だが、「なーに、ニヤついてんすか!............ったく。帰りますよ!惚気を聞くために上がり込んだ訳じゃ無いんで。おやすみなさい。」という吉田くんの言葉で、アツシの様子が分かると、俺も思わずニヤけてしまった。


 吉田くんが帰って、シンとした部屋の中で俺はアツシが此処に来るのを待った。
 一体どんな顔をして入って来るのか...................。
 俺はどんな顔でそれを待ち構えたらいいんだろうか.............。

「入るぞー。」 
 暫くしてぶっきらぼうに言うと、その手には洗面器を抱えているせいか開き切っていない襖を足の先で器用に開けてアツシが入ってきた。

「シャワーは無理だろうから、今夜は身体を拭くだけな。その後で湿布を貼ってやるから。」
「うん、ありがと。」

 アツシが俺のTシャツをたくし上げると、露わになった腹や胸を絞ったタオルで拭いてくれる。本当は、そこまで大げさな痛みじゃないんだけど、俺はこの際アツシに甘えてしまおうと思っていた。嫁なんて言い方は好きじゃないが、アツシが俺に尽くしてくれるのは嬉しくて。
 前に急性アルコール中毒で倒れた時も、こんな感じで甘えてたな、俺。

 互いに好きだという気持ちが繋がって、身体も繋がってからまだそんなに経ってはいないけど、俺たちには言葉に出来なかった時代がある。だから、この先は誰に知られてもちゃんと向き合って進んで行きたいんだ。アツシと二人で、これからもずっと。

「アイツの顔見た時、ホントに心臓止まりそうだったよ。お前やシオンくんは楽しそうにやって来たけどさぁ。」

 先日のアツシの店に行った時の事を言いだして、俺は又思い出した。
「なんか変だと思ったんだよなぁ。急に205号室の人間と関わるなとか言い出して。ちゃんと話してくれたらよかったのに.....。」
 俺が不服そうに言う。

「そんなの言えるか!言ったら絶対、オレと付き合っているから近寄るなとか言いそうだもん。お前はノンケでいてくれなきゃ。」

「............そこに拘るねぇアツシは。よっぽど周囲の目が気になるのか?俺は気にしないって言ってんのに。」
 タオルを持つ手を取ると、アツシの顔を見ながら言った。

「お前にはいつもカッコイイ男でいてもらいたい訳よ!気持ち悪いなんて思われたくないの!分かってんのか?」
 そう言うと俺の身体を少し横に向かせて背中を拭きだす。

「また、そんな事を..............。夏目さんにも言っちゃっただろ?!俺はなんて思われようと、言われようと、アツシが俺の横に居ない事の方がキツイんだよ。もし言われるとしても、俺はそこらのホモとは違うって言ってやる。」

「そこらのホモとは違うって、なんだよ、ソレ。」
 アツシが笑いながら聞くから、「俺が好きになる男は、渡部 淳だけだ。他の男は問題外。ってな!」と言ってやった。

 アツシの背中を拭く手が止まる。
 ん?............

 振り返ってみたいが、痛くて身体を捻る事は出来ない俺。
 背中越しに、なんだか鼻をすする音が聞こえて、まさかとは思うがアツシは泣いている?

「アツシ.......?」

「.......バーカ。そういう事言ってるから女泣かせるんだよ!ころりと騙されちゃうだろ?!」
 鼻をすすりながらまた背中にタオルを当てると言った。

「拓海くんは優しいから、気を付けないと女に付け込まれるぞ。チョロチョロ寄り道なんかしてっから腰を痛めるんだよ!まっすぐ帰って来いよな!!」
 アツシは力を込めると背中がひりつく程擦るから、俺は逃げたくなる。
「痛いって----ッ。チョロチョロなんかしてないからな!お前こそ、ヤリチンは卒業したんだろうな。何処かから湧いて出てくるなんて嫌だから!吉田とも口きくなよ?!」

 俺が顔も見ずに言うから気に障ったのか、アツシは俺の肩を掴むと身体を上に向ける。

 アツシと目が合った。
 やっぱりちょっと涙目。メガネ越しにでも分かるほどだった。でも、口角をあげてニヤッと笑うと言った。

「オレはまっすぐ拓海のここに帰って来るよ!だから、ちゃんとスペースは開けて待っててくれよな?!」

 アツシが俺の胸に頬を当てると、じっと見つめてくる。その目には迷いがなかった。そっと胸に手を当てて摩ると、もう一度ニコリと笑う。

「バーカ。ここはアツシの特等席に取ってあるんだから、いつでも待ってるって。寄り道すんな!」
「お前もな!」

 俺とアツシは互いに笑い合って、しばらくはじっとそのままの姿勢で過ごした。俺の心臓の鼓動が聞こえると言って、耳をつけては安心したような顔をするアツシに、俺の目頭も潤んでくる。

 中学、高校、大学。社会人になってからも、俺とアツシの世界は二人で回り続ける。

 きっとこれからも、あみだくじみたいな人生の道を自分で選んで右や左に進んでいくんだろう。

 けど、その先に待っているのが俺とアツシの帰る家ならば、何も怖くは無いと思う。まっすぐ何処にもよらずに、お前の胸に返るからな---------。













---------------『寄り道しないで帰ろうよ。』 完------------------

ご覧いただき有難うございました
 
アツシと拓海の日常は、これからもまったりと続いて行くことでしょう。
そっと見守っていてください。 (^^♪


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