【妄想男子と恋のゆくえ。】09


 メンズファッションの雑誌をペラペラとめくって見た後、俺は場所を移して建築関係の書籍が置かれた棚を覗きに行った。
隣にいる森に「ちょっとアッチにいるから、」と声を掛けて歩いて行くと、後ろから森が付いて来る。俺はそのまま自分の見たい本が置かれた場所まで行き、勝手に棚を漁って手にとってみる。

「森は見たい本とか欲しいのある?」と聞いてみたが、「別に無い。」とひとこと返されただけ。
「先に帰っていいのに・・・・」と言う俺に、特に言葉も発しないままじっと横で同じように本を広げて見ている。付き合いがいいのか何なのか・・・・。

暫くすると、ひと通り見終わった俺は一番安い雑誌だけを購入して本屋を後にした。もちろん森も俺の後を追って出てくる。
本屋にいる間に、二人の間で交わされた言葉は、ほんのふたことみことだけで、いつもいる横山たちとの賑やかさが懐かしく思えた。こんなに静かに友達と過ごすことは無くて、俺が森に掛ける言葉も探りつつ、別に気を使う訳でもないけれど、調子が狂う。
横山たちと女子の値踏みをしたり、夏休み中の遊んだ話やバイト先での出来事を語り合って時間をつぶしていたのはなんだったんだろう・・・。

「なあ、森って普段何して遊んでんの?」
俺は素朴な質問をする。隣で黙々と歩いているだけの男の日常が変に気になって、ドイツの学校の話は昨日の帰りに聞いたが、彼女の話とか母親や家族の話、そういうものが一切話題に出ないって事が珍しくて、不思議でたまらなかった。

「遊ぶ?・・・・・・ひとりで何をするの?オレは家では勉強をするぐらい・・・。」
「・・・・え?マジ?!勉強って、、、、受験勉強とか?」
俺は森の口から出た言葉を疑った。高校生男子として、勉強だけって・・・・・あり得ない。

「受験勉強って訳ではないけど、ドイツでの授業と日本では違うから、ここの中学生の参考書からやり直しているんだ。」

「・・・・・へ、ぇ・・・・」

外見からは想像の付かないガリ勉している姿が思い浮かぶと、正直、俺は呆気にとられてしまった。まあ、日本に戻ってきて友達っていう友達もいないんだろうけど、そう思ったら今日横山や鳥居の誘いにコイツを連れて行けば良かったかな、と後悔する。

「今度、横山たちと遊びに行かねぇ?カラオケとかゲーセンでもいいし、森が行きたいところとかあったら一緒に行くし、さ。」
そんな言葉を掛けるが、森は視線を落とすと首を傾げて不機嫌そうな顔をする。この表情はもう慣れた。見た目ほど怒ってはいないんだ。ただ、その後に何も返答が無いと、それはそれで焦るわけで・・・。

「別にいいんだ、行きたいところって言っても分からないよなぁ、日本に帰って来てまだ日も浅いんだから・・・。横山たちに面白い所聞いてみるから、今度は一緒に行こう。」
そう言うとバス停に着いたが、到着までにまだ少し時間もあるし、他に待っている学生たちもいるから俺は舗道の隅にある木陰で待つことにした。森の返事を待っていたらいつになるやら分からない。そう思って次の話題を考えている俺に、「研ちゃんの家に行ってみたいな。」と、俺を追って木陰に来た森が少しだけ恥ずかしそうに言う。

だが俺は、すぐに晴香の顔が頭に浮かんで返答に困った。
アイツが強請った通りになってしまう。家に連れて来いと言われたが、まさかこんなにすぐに実現するとは思っていなかったし、晴香の喜ぶ顔を想像したらムカつくし・・・。

「俺ん家なんか来たって、何にも無いぞ。煩い妹がいるくらいで、オフクロはパートで6時まで帰って来ないしさあ。」
「いいよ、何もなくてもケンちゃんがどんなところで暮らして来たのか見たいだけ。」
案外真面目な顔で言われると、断わる事も出来なくて、俺は「じゃあ、今度、な。」と言ってしまった。

「うん、楽しみだ。」
森が口角をあげてニッコリ笑うと、俺もちょっとだけいい事をした気分になる。

バスが来て乗り込んだ俺たちは、混みあった車内で立ったまま揺られると、時折肩が当たり「ごめん」と言っては謝り合う。何度目かで森の腕に当たりそうになると、俺を支えようとして肩を抱かれるみたいになって焦った。
ちょっと斜め上を見上げると、森も俺の顔を見ていて、視線が絡むように合うとドキリとしてしまう。

変な意味はない。森は男だし、俺よりデカいから頼りになるが、それだけだ。このドキッとした胸の高鳴りが何なのか分からないけど、自分の中の記憶が覚えているようないないような・・・。曖昧な記憶がもどかしいけれど、そうしているうちに自宅のあるバス停に着いてしまい二人で揃って降りた。

「うちに寄って行く?」
森の住むマンションの前に着くと俺の方を見て聞くが、未だにモヤモヤしたままの俺は「いや、今日は帰る。」とだけ言って、そのまま手をひらひらと振りながら別れた。

「じゃあ、また明日。」
「おう、バイバイ。」
俺の背中に掛かった声に返事だけ返すと、そのまま振り向きもせず歩いて行く。なんとなく視線を感じながら、でも、振り返って森の顔を見る勇気が無い俺は、自分でも説明しがたい感情に支配されていた。




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コメント

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Re: No title

> 森くん、あからさまなんだけど、視線を向けられている側って案外、気付かない者なんだろうか?(笑)

男同士ですもの、案外気づけないものかも!?
でも、ふとした事でハッと気づくのも面白い・・・・・かな?
自問自答したりして。笑  

No title

森くん、あからさまなんだけど、視線を向けられている側って案外、気付かない者なんだろうか?(笑)